こころ
相談12 私には感動するということがありません
2011.05.02 Mon
私には、感動するということがありません。友達に「これ絶対、感動するから」と勧められた映画や本を見ても、実はちっとも感動しません。「感動したでしょ?!」と聞かれると「うん!」と答えておくのですが、「感情がこもっていない。なんでこれで感動しないの、私の感動返して!」と言われています。
涙を流すこともありません。みんな気持ちよさそうに泣いているのを見ると、あんな風に泣いてみたいと羨ましくなります。私が最後に泣いたのは、中学の時。
私の家族は複雑で父と母は結婚しておらず、父には母以外に4人の「妻」がいました。私たちは父とは別に住んでいましたが、3人の「妻」と子どもたちは父が所有する一つの建物の各階に住み、私も含め「異母兄弟姉妹」は仲良くしていました。私の小学校の最後の三年間は同じクラスに異母兄弟がいましたが、それもなんとも思わずに過ごしてきました。
父はまともに事業をして羽振りも良かったのが、ある時期から不景気になり居酒屋を始めました。子どもたちも手伝いに動員され、私も行っていました。
私は中学では運動部に入り、2年のある日、靱帯が切れたのですが、それでも店の手伝いに来いと言われて足を引きづりながら行って働いていました。そこに部活の顧問が店に来ました。熱血の好ましい先生だったのできっと助けてもらえると思ったのに、先生は父とビールを飲みながら私に「いい修行になるよ」と言って笑っていました。
その時に私は頭が真っ白になり、その先生への好ましい思いがさーと引いていくのを感じましたが、別に泣くこともありませんでした。私が泣いたのは、これまで練習に頑張ってきたのにこの怪我のために中学最後の試合に出られなかったことです。悔しさで大泣きしました。それが最後で、以来、私は泣いたことがありません。
その後、父の事業はうまくいかず父から渡される生活費が途絶えたので、私たちは父から逃れて母子三人の暮らしになり、近年、母が新しい男性と住み始めたので、それを機に私は家を出て一人暮らしで働いています。私が泣けないのは、こうした私の育ちのせいと友達から言われることもありますが、普通であればよかったとは思うものの、しかしこの生い立ちで困ったと思ったことはありません。
ペットを飼えば、歌をうたったらなど勧められるのですが、動物アレルギーなのでペットは飼えませんし、カラオケに誘われて行くことはありますが、歌にも感情がのることはなく楽しくもありません。どうしたら、私は泣けるのでしょうか。( 20代 女性)
回答
相談12 回答
友人の「、、これで感動しないの、私の感動返して」とはいささかひどい表現ですね。一般的にどう感じるかはその人次第ですし、感動という特定の情緒にまで踏み込むのであれば、それこそ他人にアレコレ言われるスジアイはありません。私にも「なぜあれがそんなに感動的なの」と思うことはいくらるでもあります。感じ方は主観的ですから、まず他人の評価的言辞に反応する必要はない、と申し上げておきます。
それはおいて、あなたはどうもお泣きになりたいようですね。たしかに泣いてすっきりすることはあります。どうしたら泣けるかは、このように短い紙面で、文章として書くことはなかなか困難です。で、提案の一つは、カウンセリングをお受けになってみることです。数回でいいでしょう、カウンセラーに生い立ちをお話になって、泣きたいとおっしゃってみてください。
なかなか厳しい生育史だったように思えますし、おっしゃるように、辛さを封印してきた部分もあるかもしれず、それが感情を抑制することに繋がっているかもしれませんね。あなたはそれで困ったことはない、ということですから、そのお気持ちを大事にしてあげたいとは思いますが。
もう一つは、けっして簡単にはできになれないかもしれませんが、一応書いてみましょう。
あなたしかいない静かな部屋。好きな香でもたいて、環境音楽のようなものをかけ、ゆっくりと落着きます。あなたの前にもう一つの椅子を置き、向き合います。そしてその椅子に居て欲しい人が居ると思ってください。そしてその人に向かって、しみじみこれまで出来事を振り返り、そのいちいちを言葉に 出してみてください。さあ、どうでしょう。これをゲシュタルトの椅子といいます。
回答者プロフィール
河野貴代美
アメリカの大学院で心理臨床を学び、日米の精神病院やファミリーサービスセンターでカウンセラーとして勤務。1970年後半にアメリカからフェミニストセラピーという言葉とその実践を持ち込んだ日本で最初のフェミニストカウンセラー。1980年2月 東京に「フェミニストセラピー”なかま”」として初めての民間開業に踏み切り、その後、日本各地でフェミニストカウンセリングルームの開設を援助し、また女性センターの相談員の教育・研修等、フェミニストカウンセリングのパイオニアとして常に第一線で活躍。アフガンのカブール大学教育心理学部でトラウマの授業、メディアのために国際会議の取材等、国際的な活躍をしてきた。著書に『自立の女性学』『フェミニストカウンセリング①②』訳書に『女性と狂気』『バイセクシュアルという生き方』等多数。
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