こころ
相談16「いつも明るく振る舞ってきた人への気遣いを指摘されてから、息苦しくてたまりません。」
2011.09.21 Wed
相手や場面によってパッチワークのようにいくつかの台本の中から会話や表情を選択して人と接してきました。なるべく相手が不機嫌にならないように。なるべく誰も嫌な思いをしないように。なるべく場の雰囲気を和やかにするように。
幼い頃からそうしてきたので自分では気づかなかったのですが、ある飲み会でそんなに長い時間をともに過ごした事のないクラスメイトから「あなたのそういう明るさや気遣いの揺り戻しはどういうときに出るの?」と聞かれた事がきっかけで、これまでは当たり前だと思っていた気疲れが気になるようになり、また、その気疲れを悟られないように、今までは程よくわがままに自分の主張を散りばめたりしていた事がうまくいかなくなってしまいました。
元々、嫌になったらその場からフェードアウトしていく性格だったのですが、ほんのささいな不満も指摘できなくなり、積もり積もって、でも結局は不満の対象の本人以外の人に聞いてもらう、ということを繰り返しています。
元来、本当に嫌な事や本当に自分がしたいと思う事は口に出すのが苦手だったので、そのきっかけのために大幅に変化したわけではないのかもしれません。けれども、その指摘によってそれが苦しい事だと気づいてしまってから、いつも息苦しく、ますます自分を表現出来なくなっている気がしてしまいます。どう考えれば楽になれるのか知りたいです。(東京、25才女性)
回答
相談16 回答
どうもあなたへの質問の多い回答になりそうで、ごめんなさい。
まず、相手が不機嫌になるとか嫌な思いをしているとか、をどのように知るのですか? 表情とか? 人はとてもうれしいと、ブスッとしたり、あまりに絶望的だと、逆に笑ったりします。ジェスチャーは気分を単純に直截に表現したものではないし、また空気を読むことは結構危険だと私は思います。
山本七平さんに『空気の研究』という本があります。彼は第二次世界大戦が「空気から出発した」と言います。優秀な軍人が反対したくても「とても反対できるような雰囲気ではなかった」と思っていたそうです。
さらになぜ深い付き合いのないクラスメートから、あなたの気遣いのことを指摘されたかおわかりですか? 考えてみたことある?
私が察するに、あなたの明るさや気遣いがたぶん自然で正直ではないからです。むりしているのが見えたからでしょう。指摘してくれたその人以外にもひょっとするとよく見えていたかもしれませんね。あなたは気遣いを悟られていない
つもりでしたが、その努力はあまり有効ではなかった? つまり厳しい言葉ですが、「防衛」が壊れてしまった。
「わがままに自分の主張を散りばめていた」ことは、うまくいってましたか? パッチワークといい、主張を散りばめるといい、ずいぶん器用というか、あなたなりの努力をされていたのですね。でもね、これでは疲れるどころか、自分が何なのか、どうしたいかもよくわからないでしょう。
人の行動は年月のうちにパターン化されます。で、どうすればいいかは、もっと長い文面が必要ですが、一つだけ。自分のイエスやノーを確かめるとか(具体的、瑣末なレベルで)さらにどう感じているかを相手や状況に影響されないで実感してみてください。そうしているうちに「自分」が立ちあがるといいのですが。
回答者プロフィール
河野貴代美
アメリカの大学院で心理臨床を学び、日米の精神病院やファミリーサービスセンターでカウンセラーとして勤務。1970年後半にアメリカからフェミニストセラピーという言葉とその実践を持ち込んだ日本で最初のフェミニストカウンセラー。1980年2月 東京に「フェミニストセラピー”なかま”」として初めての民間開業に踏み切り、その後、日本各地でフェミニストカウンセリングルームの開設を援助し、また女性センターの相談員の教育・研修等、フェミニストカウンセリングのパイオニアとして常に第一線で活躍。アフガンのカブール大学教育心理学部でトラウマの授業、メディアのために国際会議の取材等、国際的な活躍をしてきた。著書に『自立の女性学』『フェミニストカウンセリング①②』訳書に『女性と狂気』『バイセクシュアルという生き方』等多数。