こころ
相談19「ゴキブリが怖くてたまりません。父親との関係が影響していると言われるのですが・・・」
2012.05.06 Sun
私は39才の独身女性です。ゴキブリが怖くてたまりません。ただの怖さではなくて、ことばを聞いただけでも怖くて脂汗が出てくる始末です。こうして書くのも苦しいので、以下、フルネームではなく「ゴキ」と記させて下さい。
実際に家の中に出たときには、必死で泡の出る殺虫剤を吹き付けます。しかし、その後、始末するのに紙の上から触るのも怖くてそのために仕事を半日休んだこともあります。また、怖いと思うと、なぜかそれを食べてしまうという最悪のイメージが頭に浮かんできて拭い去ることができなくなります。
最初の恐怖の記憶は中学一年の夜、両親が出かけていて一人で家にいるときのことです。新築の家だったのでそれまで出たことがなかったのに、その時に始めて二匹出てきたのです。ちょうど、一月ほど前に人間がゴキに食べられる恐怖映画を見ていたことが重なったと思うのですが、怖くて耐えられず親戚の家に電話をかけて助けを求め、電車で一時間半もかかるその家に飛んでいきました。
それから15年以上もたった30才の頃、自動販売機で友人と一緒に飲み物を買っていたら、ゴキが出てきて私の足の上を這ったのです。その時は、恐ろしさばかりか、とんでもない不潔なものに触れられたショックで自分がひどく穢れたように感じて、隣に友人がいたのに声を上げることもできませんでした。
私の恐がり方を友だちは、他の問題が背景にあるのではないか、父親とゴキとが重なっているのではないかと言います。確かに父は家族に暴力をふるい、父ばかりか両親ともに金銭面でだらしなく、私はそんな両親が嫌で20才の時に家を出ました。そういうことが影響して恐怖症になることもあるのでしょうか? そうであってもなくても、この恐怖を少しでも克服することができないでしょうか。
回答
相談19回答
どなたにも一つや二つは怖い物(事)があるのをご存知ですか?
たとえば、友人は、かいわれのスポンジについている根っこ(ブツブツ)が嫌いで、目を瞑りながら切り離すそうです。私は「手をきるよ」と警告していますが。 私の妹は、風呂場にたまった毛髪が見るのもいやで、心の整理をして(これってイミシンかも)掃除にはいるとか。
もう一人の友人は蛇が怖く、ちょっと私がブッシュぽいところに足を踏み入れようものなら、「やめて」と叫びます。まだ、蛇の姿すら見えてもいないのに。
昔は家族も多く、三度がご飯でしたから、実家などにはお米を入れておく部屋がありました。そこで亡母の絶叫が聞こえたら、ねずみが出たのです。こんな例を挙げればキリがありませんね。なんというか「おぞましきもの」ですね。
なぜ、上記の「モノ」がイヤ、嫌い(怖い)かの理由はあるかもしれませんし、ないかもしれません。精神分析医ならあるというでしょうが、私はそれを表層でアレコレ言いたくないタイプの人間です。あなたの友人のおっしゃるように、暴力的だった父のイメージやら家族問題からきているのかもしれません。でも、こうやって私に書いていらっしゃるのだから、それにハタと納得なさらなかったのでしょうか。
人間とは動物に比べて合理的理性的であると考えられていますが、同時になんとも非合理な理屈に合わない行為・思考をするものであるかと私は思ってもいます。合理科学的思考にもとづくはずの宇宙に関心をのばしても、生活の諸次元においては理屈では解けない現象に悩まされてもいませんか。「おぞましきもの」ではなくても。
超近代的なビルを建てるのに地鎮祭をするでしょう? たぶん「科学的な理由」などないと思いますね。でも、地鎮祭自体を止めるわけにはいかないでしょう。で、私の提案は、ゴキブリ恐怖を克服するより、それ自体を受け入れてはどうでしょう。
恐怖心はたしかにそれを感じるたびにシンドイ、だから取り除きたいということはわかりますが克服したいと思えば思うほど怖さは強迫的に反復されるように思います。「強迫反復」といいますが、これに妙案があるとは思いません、特にこのような紙上では。
回答者プロフィール
河野貴代美
アメリカの大学院で心理臨床を学び、日米の精神病院やファミリーサービスセンターでカウンセラーとして勤務。1970年後半にアメリカからフェミニストセラピーという言葉とその実践を持ち込んだ日本で最初のフェミニストカウンセラー。1980年2月 東京に「フェミニストセラピー”なかま”」として初めての民間開業に踏み切り、その後、日本各地でフェミニストカウンセリングルームの開設を援助し、また女性センターの相談員の教育・研修等、フェミニストカウンセリングのパイオニアとして常に第一線で活躍。アフガンのカブール大学教育心理学部でトラウマの授業、メディアのために国際会議の取材等、国際的な活躍をしてきた。著書に『自立の女性学』『フェミニストカウンセリング①②』訳書に『女性と狂気』『バイセクシュアルという生き方』等多数。