2012.03.25 Sun
研究者としての私は、これまで文学や映画の領域で、国家とジェンダーの関係を問題化するフェミニストの作品を研究対象とし取り上げ、それらの作品が、いかに国家の物語を女性の側から語り直す力をもっているか、明らかにしようと試みてきた。研究を通して求めていたのは、「領有化された女性の身体を再領有化すること」“re-appropriation of the appropriated body”(トリン・T・ミンハ)だったといえるかもしれない。
その一方、自分の生の現場で起きた出来事はテクスト化できず、思い出そうとすると適切な言葉が見つからず、苦痛が生じる。フェミニスト的視点からの「語り直し」、そのための用語と戦略が必要だ。どのポジションから、誰に向かって語るのか? 黒人女性作家トニ・モリスンの『ビラヴド』の主人公、黒人女奴隷セスが“trust and rememory”と繰り返すように、信頼し、再び思い出すことができる場はどこに求められるのか。
私は、今回、上野ゼミにそうした「場」を求めた。その場に居合わせ、聞いてくださった方、貴重な問いかけをしてくださった方々に、感謝申し上げたい。問いかけを思い返すたび、新たな答えが生まれ、対話が続いている。Motherhood(母であること)を生き延びたフェミニストとして、今後、語ってゆくための言語を模索したい。
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