女性学ジャーナル

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  • 若い女性のフェミニズム離れをどう読み解くか

    2019/05/09

    • リサーチ

    著者名:高橋 幸

    1983年生まれ。2008年東京大学大学院総合文化研究科で修士号を取得、2014年同博士課程単位取得退学。現在は、武蔵大学(他)で非常勤講師を務めながら、博士論文を執筆している。専門は、ゲオルク・ジンメルを中心とする社会学理論、ジェンダー理論。

    若い女性のフェミニズム離れをどう読み解くか

    論文概要:

    1980年代のフェミニズムバックラッシュ以後の英米では、フェミニズムから距離を取る若い女性(以下、ポスト・フェミニストと呼ぶ)の調査研究が進められてきた。ジェンダー平等を望ましいと考える点で第二波フェミニストとポスト・フェミニストは共通するが、ポスト・フェミニストは、ジェンダーを個人的な問題として捉え、女性という集合的アイデンティティを避ける傾向を持つ(Jones 2016)。ポスト・フェミニストの具体的な主張内容を明らかにするため、本稿は2013年から2014年にSNS上で生じた英語圏の#WomenAgainstFeminismを分析する。
    分析の結果、次のことが明らかとなった。1)ポスト・フェミニストは、自らの経験に基づいてもはや社会的なものの領域での女性差別はなくなったと認識しており、それゆえ、現在ジェンダーが問題になるのは家庭生活や恋愛といった個人的なものの領域においてのみであると考えている。2)また、家庭や恋愛での女性役割を楽しみたいという主張を持っているが、このような見解がフェミニストによって批判されていると思い込んでいるがゆえに、フェミニズムに反対している。3)恋愛や家庭生活において評価される能力や魅力と、社会的なものの領域で要求される能力や魅力とが、男性の場合よりも女性においてより乖離しているという社会構造上のジェンダー非対称性に起因する問題を、「女らしさ」「女性的魅力」を磨くことで乗り越えようとする姿勢がポスト・フェミニストには見られる。

    キーワード:ポスト・フェミニズム、個人化、SNS、ハッシュタグ・アクティビズム


    After the period of backlash against feminism in 1980s, some young women reject to be called “feminist”, and others show ambiguous or opposing attitude toward feminism. They are called “post feminists”. Many researchers have studied their attitudes and claims (Aronson 2003, Jordan 2016). This essay analyses the latest post-feminist’s opinions about feminism.
    The data are pictures which are uploaded to Tumbler “Women Against Feminism” with the hash tag “#WomenAgainstFeminism”. The hash tag movement of #WomenAgainstFeminism occurred in 2013-2014 among English-speakers. They shot a selfie with a note written down the reasons to oppose to feminism and shared it on SNS. The note starts with the phrase, “I don’t need feminism because…”.
    This study analyzes these texts to classify 6 categories and finds 3 things as follows. 1) Based on their own experience, post feminists have an opinion that there isn’t any discrimination against women any more. That’s why they regard the gender problems as occurring in personal life, and insist gender is the personal. 2) They demand to enjoy the gender role and femininity in their family and in their romantic relations. 3) From their claims, I could find the social structural gap between a female attractiveness in romantic relations (like kind or tender) and an appeal in business (like persuasive, powerful or having enough dignity as a leader). Post feminists are people who try to overcome this gap by personal effort to become “more attractive”. But we need to recognize this structural gap correctly to reduce women’s difficulties in their daily life.

    Keywords: post feminism, individualization, SNS, hash tag activism

    コメンテーター:斎藤 美奈子(さいとうみなこ)

    フェミ嫌いと新自由主義
     フェミニズムとの距離をどう取るかは、なかなか微妙な問題だ。男女平等社会の到来は歓迎するけど、フェミニストのレッテルを貼られたら損しそうだし、フェミニストを名乗る人たちも魅力的には見えないし……。
     「フェミニズムから距離を取る若い女性」を「ポスト・フェミニスト」と呼び、彼女たちの本音をSNS上の言説から探る。「若い女性のフェミニズム離れ」を分析した本稿は、世間にあまねく蔓延する以上のような心情を知る上で、きわめて興味深い論考である。
     読んだ人はみな叫ぶだろう。うわっ、日本とおんなじじゃん!
     分析対象は英語圏の、それも2013年〜2014年の発言だけ。にもかかわらず「私はフェミニズムを必要としない、なぜなら…」ではじまる「ポスト・フェミニスト」たちの言い分は、どこかで聞いたような台詞ばかりだ。いわく「私は夫のためにクッキングするのが好き」(性別役割重視)。「私は女らしいファッションが好きで、女らしくありたいと思っている」(恋愛重視)。ことに「自分はフェミニズムが言うような『女性』ではなく『個人』である」(「個人」主義)は、いるよいるよ、そういう人!(特にキャリアウーマンに)と思わせる。ポスト・フェミニストの半数(47.8%)がこの種の「『個人』主義者」である、という事実はじつに今日的である。
     主な投稿者は10代後半〜30代の若い層。「#WomenAgainstFeminism」というハッシュタグが立つこと自体、「そこまで熱心になる必要がどこにある?」だけれども、本稿が優れているのは、こうした「『個人』主義者」について「ジェンダーの問題を個人化し、個人の責任で対処すべき問題と見なす傾向は、新自由主義政権が進める『個人化』と共振する」と分析している点だろう。な、なるほど。「女性が輝く社会」とかホザいている安倍晋三政権の思惑も、それで説明がつくじゃないの!
     ただし、読む上で多少の注意も必要だ。主としてそれは「2013年7月から2014年12月まで」という期間の問題に由来する。著者自身が指摘する「2015年以降の投稿は極端に減っている」、また「2017年10月以降は更新が止まっている」という事実は意外に重要なんじゃないか。
     ハリウッドのセクハラ事件に端を発する「#MeToo運動」がやはりSNSから広がったのは2017年。日本でも話題になったチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』(くぼたのぞみ訳・河出書房新社・2017)や、ロクサーヌ・ゲイ『バッド・フェミニスト』(野中モモ訳・亜紀書房・2017)の原書が米国で出版されたのは、いずれも2014年である。フェミニズムの巻き返しともいえるこうした現象は、若い女性たちが「ポスト・フェミニズム」の段階を卒業し、「ポスト・ポスト・フェミニズム」の時代に入ったことを示していない?
     もっとも、そのくらいは著者も織り込みずみだろう。「個人」を尊重するふりをして社会運動を排斥する動きは、これからも繰り返し出てくるはずだ。そのときには「ああ、あれか」と思えばいい。それだけでも必見。肩で風を切って歩いている日本の「『個人』主義者」たちにもドキッとしてもらいたいわ。

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