
チラシ画像/中の写真の撮影:松本路子さん
――私たちは”当り前”とされていることを疑いもなく受け入れ、”当り前”であることからはずれたものを疎外し差別する。さらに”当り前”であることを強制しようとしてしまう。イトー・ターリは女として、レズビアンとして二重の差別に直面するポジションから私たちが”当り前”と思っている観念や価値観、社会の慣習のカベをはぎ取っていく!「~らしさ」を強制するカベを、異性愛を強制する社会のカベを破っていく!(映画のジャケット裏面より引用)――
イトー・ターリさんは、パフォーマンスアートという手法を使って、女であることで社会が期待し求めてくるものではない、彼女自身の、生身のセクシュアリティを表現してきたアーティストである。2000年に作られたこの映画は、その頃の彼女の数年間を山上千恵子さんが記録したドキュメンタリー作品だ。2001年、第3回ソウル女性映画祭で、アジアンショートコンペティションの観客賞を受賞している。
映画には、ターリさんが1996年に「自画像」という作品の中で、レズビアンとしてカムアウトしたときの映像が出てくる。その告白は、まるで衝撃波のように山上さんの心を穿ち、彼女自身のセクシュアリティへの認識をいっそう豊かなものにした。この映画が『Dear tari ディア ターリ』というタイトルそのままの、山上さんからターリさんへの親愛の情が込められた私信/ラヴレターのようにも見えるのはそのせいだ。対象に取り込まれそうな感情の揺らぎの中に、明け透けではない率直さをもった山上さんの、彼女らしさが良く表れている気がする。
この映画の後、ターリさんはセクシュアリティを見つめる作品とともに、日本軍「慰安婦」問題、沖縄の米軍基地と性暴力、原発事故と放射能といった社会問題への応答を、アートをとおして模索していく。一方、山上さんも『30年のシスターフッド~70年代のウーマンリブの女たち』(2004)、『山川菊栄の思想と活動 姉妹よ、まずかく疑うことを習え』(2011)、『潮風の村から~ある女性医師の軌跡~』(2013)、『女たちは闘いつづける!〜均等法制定前夜から明日へ』(仮題、現在制作中)と、”この機会を逸しては撮りえなかった人たち”と向き合い、彼女ならではの視点で作品を作ってきた。『Dear tari ディア ターリ』は、そんな山上さんの映画監督としてのスタートを切る、記念すべき第1作目として見ても興味深い。(中村奈津子)
監督 山上千恵子
撮影 武藤隆 山上博己 石井仁志
編集 山上千恵子 堤幹夫(フォルテレイン)
音楽 長与寿恵子
協力 安藤能子(音楽)
江ノ島水族館 ギャラリーブロッケ
四方志保 東京都写真美術館
製作 ワーク・イン
◆山上千恵子監督の新作 「女たちは闘いつづける!〜均等法制定前夜から明日へ」(仮題/45分)、来春完成をめざして進行中!◆
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