WANマーケットコーナーで好評連載中の「金丸弘美のニッポンはおいしい!」。食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが各地で、食や農業のより良い形を模索し、新たな道を切り開いている女性たちを紹介しています。
現在のコロナ禍のもとで、金丸さんご自身と連載で紹介した女性たちがどう活動されているのか、金丸さんからのレポートが届きました!
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大学・遠隔授業の学生レポートから地域活況のヒントをいただく
新型コロナウィルスの影響で、3月以降、予定されていた会議、視察、取材など、すべてが中止か延期ということとなってしまった。
講師をしている大学も卒業式、入学式も中止。講義はほぼ1か月遅れ遠隔操作で実施となり、まったく学生と会えずにzoomやgoogleなどでの操作のレクチャーとマニュアルが大学から流れてきて、それに沿って1から学びパソコンを使って講義ということとなり、毎日が試行錯誤の状況だ。
なにせやったことがない上に、どういう形が相手に伝わりやすいかわからない。人数も多いので講義レポートが届いて返事をしているだけで、ほぼ1週間がつぶれてしまう。
大学は二つ。明治大学農学部食料環境政策学科「食文化と農業ビジネス」(135名)、フェリス女学院大学国際交流学部「地域と食文化」(151名)。人数がかなり多い。
WAN連載を写真スライドで講義に活用し、大きな反響に
幸い全国で取材をしてきたことで写真が豊富にある。講義ではできるだけスライドを多く使い、見て分かることを心掛けた。
フェリス女学院大学は最初の3回でWAN(ウィメンズ・アクション・ネットワーク)の連載「金丸弘美のニッポンはおいしい!」から、地域で活動をする女性を取り上げた。講義だけでなくサイトを案内したので直接アクセスして読めるようにもなっている。
WANは上野千鶴子さん(社会学者・東大名誉教授)が理事長を務めるサイト。上野さんから「地方の、特に農村の女性を取り上げてほしい」という要望を受けて取材を始めたものだ。
昨年、初めて講義で紹介したところ大きな反響となった。
というのは、女性が農業と地方の主役となり、これまでの男性の発想とはまったく異なる消費者目線で農産物を動かしているからだ。しかも地域の経済と雇用にも繋がっている。
学生たちから長文の感想とレポートがいくつも届いた。
「全ての紹介ページを見てみて、女性たちの仕事にかける強い思いが伝わってきて、同じ女として、とても尊敬しました。」「私の中で農業と言うのはあくまでも男性が中心の職業と言う考えがありましたが、現在ではジェンダーの垣根を越えて、男女共に活躍出来る場であると思いました。」「女性が持つ消費者観点、コミュニケーション能力の高さは農業をするうえで新たな価値を生み出し、地域ビジネスや新たな産業を生み出していけるように感じました」などだ。
新型コロナウィルスのなかで女性たちの農業が売り上げを伸ばす
講義で紹介したひとつに名古屋駅の近くの公園「オアシス21」で「オーガニック朝市」を運営している吉野隆子さんの活動がある。
「名古屋駅前でオーガニック朝市を毎週開催。市民と新規就農と都市と農村の架け橋として定着 吉野隆子さん」
彼女は市から手伝ってほしいと頼まれ、2002年から朝市が始まった。
朝市には新規就農した農家が1回あたり20軒から35軒が毎週出店し、無農薬・無化学肥料の野菜・米などを販売している。朝3時間ほどだが1000名ほどが集まり盛況だ。ここでは新規就農支援の講座やインターシップも行い、新規就農は70軒以上に広がっている。
学生の反響はよかったが、レポートのなかに「取組は素晴らしいと思いますが、新型コロナウィルスの影響で朝市は中止なのでしょうね」という書き込みがあった。
そこで吉野さんに電話をしたところ、なんと参加している農家は注文が殺到して売り上げを伸ばし、商品が足りないというところもあるという。公園での朝市は中止にし、事務所のあるビル前で小規模に開催したという。
そんな中でも売り上げを伸ばしたのは、これまで生産者と消費者が対面する形で朝市を形成して、参加型の体験農園、新規就農者のインターシップ、購入するレストランが欲しい野菜を販売するなど、消費者ときめ細やかな連携をとってきたことが大きい。消費者からの「朝市には行けないけど注文したい」という声から、通販を伸ばしたという。無農薬・無化学肥料というのも大きかったのだろう。朝市は6月には再開した。
全国各地で元気な農業と地域を女性たちが支え、発信
気になって各地の方々に連絡をとった。
南阿蘇の有機農業の推進メンバーの方に連絡をしたところ、こちらも売り上げを伸ばしたという。そこからさらに各地に連絡をしてみた。
長野県塩尻市「学校給食と農家をつなぐコーディネーター・村上かほりさん」
給食に納品ができなくなったものの、これまでの伝手を使って野菜を販売していたとのこと。
「昨年と比べて大きな変化は米の販売額が伸びたことです。都会のお子さんに野菜とともに送るという声も聞いています。塩尻市は市内学校給食の米を全量を市内産で取り扱っています。炊飯会社に納品に合わせて精米して出荷しているのですが、3月4月使用分の精米してある米は直売所にて販売しましたが、その米も完売しています。これから使用する給食の米は玄米として保存してあり、注文に合わせて精米されて納品されます。」と連絡をいただいた。
北海道十勝平野「レシピと食べ方がついてくる多彩なジャガイモたち」の村上智華さんからは、素晴らしい連絡がきた。
2019年11月末にオンラインショップを開設。コロナ禍の影響でお取り寄せ需要が増え、また、テレビの撮影が困難な事から過去に出演したテレビ放送が度重なり、注文に繋がったという。4月末~約5週間で1200件ほどの注文がきたというからすごい。さらに、そこからリピーターも増えているとのこと。村上さんのサイトを詳細に見た学生もいて「ジャガイモの品種特定からレシピ提案までしていく販売手法に驚嘆した」という感想も届いた。
村上さんは、今年、これまでになかった農家の活動を始めた。プロから有料でレシピを募集するというものだ。
そこには、こんなコメントがあった。
「これまで日本は、料理の実務に対しての対価はあれども、技術という見えないモノに対する対価を出し渋ってきたように思います。私はこれからの時代は人のエネルギーや技術が重んじられると思いますし、そうしなければ、この不安定な状況を乗り越えられないようにも思います。そのための一歩でした。こうした世の中になる事は、私たち自身が救われる事でもあります。だからこそ施しでなく、対価をお支払いする、非常に新しい取り組みだと思いますので、是非、ご紹介させて下さい。UPLを添付します。
https://imomame.jp/farmblog/5690/」
地域コミュニティをしっかり作ってきたところは強い
「金沢のおいしい食を農家から消費者につなぐコーディネーター」つぐま・たかこさん。自称「食いしん坊を仕事にした女」
彼女が商品開発に携わった㈱六星の専務・宮城円さんから、次のようなメッセージをいただいた。
「今回のコロナの影響はお察しの通り、顕著に表れたと思います。特にウチの場合は直売店4店舗がそれぞれ個性があるために、金沢駅と近江町市場の店は県外・海外客の比重が大きく、客数が激減して休業を余儀なくされました。
一方で松任本店と長坂店はもともと地元密着型であることと、直売所的な役割とスーパー的な役割の両方を担っていることもあり、たくさんのお客さんに利用していただき、数字的にも20~30%くらいの伸びでした。その中でも特に好調だったのがお弁当の販売で、全国的なテイクアウトグルメのブームと相まって、非常によく売れました。自社のお弁当に限らず、六星のお米を使用してもらって、いろんな飲食店さんにお弁当や丼を作ってもらって、納めてもらったり、店頭販売の機会を毎日作ったりして、3密のリスクを減らしたり、スタッフの負担の減らしたりしながら、乗り越えてきました。このつながりはコロナ後もきっと活きてくると思っています。
金沢駅と近江町市場も徐々に営業を再開してはいますが、おそらく県外・海外のお客さんが戻ってくるのはかなり時間がかかると予測していますので、より地元や近県のお客さんを大事にしていく方策が重要視されていくと思います。まあうちは元々そんな感じなので、そこまでの転換は必要ありませんが(笑)そんな感じで元気にやってます。また機会があればお会いしましょう」
嬉しい気持ちになり、元気をいただいた。
農産物直売所の売り上げは20%から30%上昇している
各地に連絡をしていたら、届いた新聞に目がいった。「農業共済新聞」2020年6月第一週号の農産物直売所コンサルタント青木隆夫さんの記事だ。そこには「直売所の売り上げが伸びている」とあった。
確認でご本人にも電話をしたところ、地方の農産物直売所の売り上げは、新型コロナでも伸びているとのこと。
さらに直売所のコンサルタントで著名な勝本吉伸さんにも連絡をとってみたところ、売り上げは上がっていると返事がきた。
農産物直売所で生鮮品を揃え、地域の住民に必要な食品を並べ、レシピ提案など、消費者と農家の接点をきめ細やかにしてきたところは、すべて20~30%の売り上げを伸ばしていた。観光客だけに頼ってきた道の駅は売り上げが下がっているとも。ただし、道の駅と直売所を融合させてきたところは売り上げを伸ばしたそうだ。
新型コロナで外出を控える人が増えたが、生活必需品は買わなければいけない。農産物直売所の良い点は地域の農家とのネットワークがしっかりしていて、モノが揃うことだ。直売所から都市部に宅配で送る人も増えている。
直売所で充実したところは顧客がついており、早くからホームページも作成し、宅配も手掛けている。そこから注文が入り、宅配、通販も伸びている。また地域に密着してレストランとコラボレーションしたケータリングを行うことで、売り上げを伸ばしているところもあった。
実は、調べてみると、地方で地域のことにしっかり取組み、固定客と農家を大事に育ててきたところは売り上げが伸びている。置いてある農作物も少量多品目だ。
こうなると、地方の暮らし、直売所のしっかりした取組み、地方の空き家などを活用した農家宿泊・レストラン、テレワークのできる空き家を活用した会社の設置、そして環境に配慮した自然の豊かさが、もっと生きてくるのではないかと想像した。
実際、空き家をリノベーションした街づくりが各地で始まっていて、ネットワークとノウハウ連携のセミナーも開催されている。ゲストハウスや、農家で宿泊する修学旅行も全国的に広がっている。ゲストハウスでは、定住を想定しての若い人の利用も増えている。
新型コロナウィルスの影響でテレワークが大きく広がり、必ずしも大学や会社に詰めなくてもすむライフスタイルがかなり広がった。都市よりも地方のほうが自然も豊かで家賃も安いことなどもあり、移住をしたい希望者も増えている。実際、学生たちからも「地方での仕事と暮らしを考えたい」というレポートが多く届いた。
WANの連載の実践事例のベースがあったことで、大学の講義が具体的で豊かになった。学生のコロナウィルス影響についての疑問から各地に問い合わせたことで、未来の窓口が見えた気がして、元気をもらうこととなった。
テレビのニュースでは都会のクラスターとか、売り上げ減の店ばかりが取り上げられている。実は地方で元気に活動をしているところもあり、それが農業の現場と女性の活動にある、なんて報道は見当たらない。
上野先生に「女性の農業を取り上げて」と言われて始めた連載。それが本当に未来を切り拓く、明日があるという気にさせてくれた。
今後、地方の活力のノウハウを共有化するための大学・行政・農家・商工会・金融機関・若者連携のセミナーを開いて、若い人の地方起業に投資してほしい。もうノウハウは各地に生まれている。前向きな学生は眼の前にいる。人材投資は今だ。