【女の本屋】から
2021年1月23日開催予定のブックトーク「シリーズ・ミニコミに学ぶⅣ」(WANミニコミ図書館主催)でとりあげる『全国女性史研究交流のつどい・報告集』の書評を3回にわたって掲載します。
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キャリアも初心者も対等な場
第1回「女性史のつどい」が名古屋で開かれた1977年、わたしは何をしていただろう。振り返ると、前年に女性史本を共著で刊行しているのに、女性史という学問分野があることも、各地で地域女性史のグループが活動していることも知らなかった。わたしが地域女性史に出会うのは、神奈川県と専門家と住民の3者が協同した『夜明けの航跡―かながわ近代の女たち』(87年刊)の編纂に参加したことから。その後いくつもの自治体女性史の編纂に関わり、その流れで自主グループを主宰したり、本作りのお手伝いをしてきた。
というわけで、第1回の「女性史の明日をめざして―女性史のつどい報告集 なごや1977.8―」を目にするのは今回が初めて。159人も参加したというのに驚き、43ページに及ぶ報告集の内容が充実していることから「つどい」の熱気が伝わってきた。1日目の報告の一つ、高橋三枝子さんの「聞き書きの中の歴史」は、早くから聞き書きを重ねてきた人の貴重な経験で、今でも聞き書きを始める人には是非読んでほしい大切な報告である。
主催した愛知女性史研究会の伊藤康子さんが「二二年のキャリアをもつ人も、昨日女性史を学ぼうとした人も対等な場」と「経過報告とまとめ」に書いており、以後12回まで続く「つどい」の性格を形作ったのがわかる。
先鋭的な先行グループ
報告書を通読して気付いたのは、第1回「つどい」に参加したのは1976年から始まった「国連女性の10年」以前にできた先行グループで、それ以降にできた後発グループとでは構成メンバーの出自や女性史に向き合う姿勢が大きく違うということだ。
第1回第1日目に参加者全員で話しあわれた「なぜ女性史を学びはじめ、なぜ学びつづけているか」によると、理由は、①女性としての暮しにくさから②高校・大学で日本史・女性史を学んだことから③地域での運動や婦人運動をすすめる中で必要を感じて④仕事をしていくなかで必要を感じて⑤女子教育に関する疑問からの5つ。ここからうかがえるグループ像は、おおむね高学歴で、大学で歴史学を学んだり、教師や社会教育関係の職業を持っていて、母親運動や平和運動など地域で婦人運動をするなかで、女性がおかれている現状に疑問を持ったという意識高い系の人たちの集団だということだ。
さらに4つの研究会が会の歩みを語っており、グループ像がより鮮明になる。最も歴史の古い愛媛松山女性史サークルは、市教組の活動家が、軍国主義の方向に向いている教育に危機感を持ったことから生まれた。兵庫県婦人運動史研究会は「平塚らいてうをしのぶ会」を開催した婦人運動の実践家たちの集まりで、「婦人解放と政治の変革をめざす婦人の民主主義婦人運動史」の編纂をめざして発足。京都婦人のあゆみ研究会も「らいてう展」の実行委員会が研究会を作り、参加団体の年表とあゆみを出版した。広島女性史研究会も同じような展開で、3グループが、婦団連が始めた「らいてうをしのぶ会」の開催をきっかけに発会している。つまり先鋭的な活動家集団で、したがって女性解放史研究を重視している。
国際女性年以降の後発グループ
一方、わたしが関わったのは後発グループで、75年の国際女性年を受けて各自治体が国内行動計画を策定し、その計画の一部として地域女性史を編纂したり、女性史講座を開催したことからできた。先駆けになったのが先述した『夜明けの航跡』で、編纂に住民が加わったのがモデルになり、以後各地の自治体が女性史編纂に際し住民を公募するようになった。さらに熱心な人たちが、編纂事業終了後も自主グループを作って学習や研究を続け、地域女性史研究会の主流を占めるようになった。
その編纂事業も講座もほとんど昼間に行われたことから、メンバーは専業主婦ばかりで、フルタイムの職業を持っている人がいたのは、わたしの経験では夜間講座から出発した1グループのみ。彼女たちは、PTAの読書グループや環境問題への関心から集団活動に入っていった人はいるが、先行グループのように、平和運動などに積極的に関わった人は少ない。祖母や母の世代の暮しを知りたい、地域に埋もれている女性やできごとに光をあてたいといった動機が主流で、解放史への関心はそれほど強くない。だから解放史も生活史も明らかにしたいという姿勢での取り組みが目立つ。
こうしてみると、先行グループが地域の女性史を明らかにしたいという熱意に支えられて険しい道を切り拓き、国際女性年以降、後発グループが全国で裾野を広げてきたことがわかる。地味な地域活動である地域女性史研究の初発の志を確認し、あとの世代へとバトンを渡すためにも、読んでおきたい1冊である。
(えさし・あきこ 女性史研究家・史の会代表)
*『全国女性史研究交流のつどい 報告集』をテキストに、2021年1月23日(土)、4回目の「シリーズ・ミニコミに学ぶ」がWEB配信で開催されます。
詳細・申込はこちらからご覧ください。
■<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む>はこちらから
<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む②>第11回報告集・東京――「中央としての東京ではなく、地域としての東京」につどう ◆植田朱美
https://wan.or.jp/article/show/9291
<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む③>第4回報告集・愛媛――今を問う! 地域に住む女たちの「ここを変える」精神の新しさ ◆長谷川 啓
https://wan.or.jp/article/show/9318
■関連エッセイはこちらから
連続エッセイ「全国女性史研究交流のつどい」報告集全12回収録に寄せて① 初の全国的女性史集会誕生 ― 伊藤康子(愛知女性史研究会)
https://wan.or.jp/article/show/9065
連続エッセイ「全国女性史研究交流のつどい」報告集全12回収録に寄せて② 初の全国的女性史集会誕生 ー折井美耶子(地域女性史研究会)
https://wan.or.jp/article/show/9104#
連続エッセイ「全国女性史研究交流のつどい」報告集全12回収録に寄せて③ 米田佐代子(女性史研究家 「らいてうの家」館長)
https://wan.or.jp/article/show/9274
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