【女の本屋】から
 2021年1月23日開催予定のブックトーク「シリーズ・ミニコミに学ぶⅣ」(WANミニコミ図書館主催)でとりあげる『全国女性史研究交流のつどい・報告集』の書評を3回にわたって掲載します。

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各地域で受け継がれた「女性史のつどい」           本書は、2010年9月4~5日「第11回全国女性史研究交流のつどいin東京」(国立オリンピック記念青少年総合センター)開催後の報告集(2011年1月発行)である。主催は、「第11回全国女性史研究交流のつどいin東京実行委員会」(折井美耶子実行委員長、山辺恵巳子事務局長他実行委員43名)
「全国女性史研究交流のつどい」(以下「女性史のつどい」と略)は、1977年に名古屋で第1回大会が開かれてから第11回までおよそ33年、各地域の実行委員会へと受け継がれてきた。(「1~11回までのあゆみ」は「第12回女性史のつどいin岩手・報告」*P159)

「女性史のつどい」には、全国組織や上部連携組織はない。毎回、開催地の女性史研究者と地元サークルなどの集合(第3回藤沢市から実行委員会が定着した)が企画し運営してきたことが大きな特徴の1つである。そのため、次に手を挙げるグループがなければ開催に至らず、数年のブランクができてもいた。「第10回女性史のつどいin奈良」(2005年)から5年を経て「第11回女性史のつどいin東京」の開催に至るまでの以下のような過程は、組織のないところから開催に至るまでの資料として是非次世代に伝えたい。他分野にも活かせる手順を含んでいる。

「第11回女性史のつどい」は、地域としての東京で
 1994年「第6回女性史のつどいin山形」以降、東京での開催の道筋を繋いだのが「女性史研究東京連絡会」(1995~2009年)の継続であり、東京での開催の声もここから上がった。
 2008年8月から、5回の「準備会打ち合わせ」を経て、同年12月第1回実行委員会がスタート(33名)。運営委員による23回の運営会議、その他「企画担当」「財務担当」などの任務分担ごとの進行、2010年9月開催を経て、報告集発送2011年1月28日第16回実行委員会までの経過中には「実行委員の学習会」などの記録もあり、これだけでも貴重な女性史資料として読める(「『つどい』開催にいたるまで 経過報告」「第11回報告集」*P183~188)。
 実行委員会は、「in東京」を「中央としての東京ではなく、地域としての東京との思いも含めた」とし、このことがそれぞれの生きる地域に根ざす「地域女性史」を究めることの意義を強調している。東京での開催を機に、分科会「江戸に生きる」を新設して近現代に限定されていた時代を前近代にも広げた。さらに分科会は「複合差別」を継承し「移動」を新設した(「『つどい』を終えて」折井美耶子「第11回報告集」P2)。

報告集「新たな女性史の未来をどう切り拓くか」
 これら分科会は第11回のテーマである「新たな女性史の未来をどう切り拓くか」の方向性を提示するものであった。

 2010年9月4日、「記念講演 一人からはじまる」(澤地久枝さん)でスタートし、1泊2日間で、11の分科会と全体会で報告検討された内容がこの報告集に集約されている。このほかミニコンサート「女性史をうたう」(佐藤真子さん)やパネル展示「女性の政治参画」などの記録も興味深い。
 さらに特筆したいのは、1998年「第7回女性史のつどいinかながわ」から引き継がれてきた「女性史史料保存・公開等のアピール」と2008年開設「国立女性教育会館アーカイブセンター」の報告が、女性史研究の進化を示していること。「地域女性史」分科会も⑴聞き書き集・通史・年表など ⑵資料保存・公開・活用など ⑶オーラル・ヒストリーへと多岐に広がりを見せて研究の積み重ねを表す。またフォトムービー「写真でたどる小金井の女性たち」のような新たな見せ方も登場していて、デジタル化への胎動を感じさせる。

東日本大震災後の「第12回女性史のつどいin岩手」へ
 私は、第11回in東京の実行委員会に参加していた。2008年第1回は神奈川から、2009年春からは岩手から、次回の岩手開催を夢見て通った。当時盛岡市での開催を考えていたが東京開催の半年後に2011・3・11東日本大震災に見舞われ「女性史のつどい」企画も流された。けれど2年後、開催地を盛岡ではなく沿岸被災地に移せば全国の女性史研究者、グループの皆さまに5年後の被災地の様子を伝えられると発想を転換。in東京の折井さん、山村さん、宮崎さんはじめ実行委員の方々の支援をいただいて、「第12回女性史のつどいin岩手」の開催が実現することになった。これもまた「女性史のつどい」の歴史の一幕かと感慨深い。
 ウイメンズアクションネットワーク(WAN)サイトのミニコミ図書館には「女性史のつどい報告集」全12回が収録された。これを記念して「地域に生きた女性たちの『フェミニズム』」がオンライン配信される(2021年1月23日13:30-16:30)。「新たな女性史の未来」がここにある。
                (うえだ・あけみ 女性史研究者「地域女性史研究会」「岩手女性史を紡ぐ会」)

*『全国女性史研究交流のつどい 報告集』をテキストに、2021年1月23日(土)、4回目の「シリーズ・ミニコミに学ぶ」がWEB配信で開催されます。
 詳細・申込はこちらからご覧ください。

<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む>はこちらから
<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む①>第1回報告集・名古屋――女性史の明日をめざして   ◆江刺昭子
https://wan.or.jp/article/show/9288

<シリーズ「全国女性史研究交流のつどい」報告集を読む③>第4回報告集・愛媛――今を問う! 地域に住む女たちの「ここを変える」精神の新しさ  ◆長谷川 啓
https://wan.or.jp/article/show/9318

関連エッセイはこちらから
連続エッセイ「全国女性史研究交流のつどい」報告集全12回収録に寄せて①  初の全国的女性史集会誕生 ― 伊藤康子(愛知女性史研究会)
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連続エッセイ「全国女性史研究交流のつどい」報告集全12回収録に寄せて③    米田佐代子(女性史研究家 「らいてうの家」館長)
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