<女の本屋より>2020年5月16日、立教大学主催・WAN共催のシンポジウム「フェミニズムが変えたこと、変えなかったこと、そしてこれから変えること」が開催されるはずでしたが、新型コロナの感染拡大によって、延期となってしまいました。(延期のお知らせはこちらから。)
 すでにお申し込みも350名ほどいただいており、大変残念ですが、ここ「女の本屋」コーナーでは、日を改めての開催に備えて、登壇予定だった講師の方々の著書をシリーズで取り上げてまいります。

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書 名 家族終了
著 者 酒井順子
発行日 2019年3月26日
発行所 集英社
定 価 1540円(税込)


 昨今の日本は、あらゆる家族形態やライフスタイルが選択可能な時代へと変わりつつあります。本書は、生育家族が皆亡くなり、家族が「終了」した著者が、日本の家族の過去と未来を縦横無尽に考察したものです。『家族終了』という過激なタイトルに、怖いもの見たさで手に取る人もいるかもしれません。本書は、「家族」について悩んでいるけれど、真正面から向き合うのは怖い…という人にとっても、変わりゆく時代の家族のあり方を考え、家族を捉え直すための希望の書なるでしょう。
 この大変革の時代に、家族が「終わる」ことへの恐れや不安が全くないという人はいないはず。生育家族や創設家族が存在しても、関係が「終わって」いると感じる人も大勢いるのではないでしょうか。例えば、2020年4月14日号の『婦人公論』の特集は、「家族と折り合えない時は−縁を切る、距離を置く、あきらめる」。家族の絆が喧伝される一方で、家族が重い、苦しいといった家族にまつわる「自分語り」にもスポットライトが当たるようになりました。著者には、『婦人公論』の1400冊余りのバックナンバーを分析した『百年の女―『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』という労作もあります。同書と『家族終了』をセットで読めば、より時代背景が整理され、個人的なことと社会(政治)の繋がりをクリアに捉えることができます。
 本書ではまず、親子・夫婦関係、嫁姑問題、ケア労働といった分野での違和感や発見が著書ならではの視点で語られます。家庭科教育の変遷を辿ったパートでは、家庭科を、人生百年時代をサバイブするための能力を身につける重要科目と捉えており、その通り!と大共感しました。食べることは生きること。「生活」は、小さく、細かな暮らしのスキルの集積です。自立して暮らすためのスキルを学ぶ場として、定年後のソバ打ち教室よりも、著者が提言する「シニアのための家庭科教室」がいかに有用か、リアリティを感じました。
 後半では、国が勧める「おすすめの家族像」の枠外で生きる家族のあり方が紹介されています。著者の経験と実践を伴った金言は、あるべき家族像や役割を押し付けられ、息苦しさを感じる人たちに勇気を与えてくれるでしょう。
 著者は「一人暮らしの人は、幸せであっても幸せをアピールせず、幸せを他人と比べることもしない人」と言い切ります。筆者も、「おひとりさま」の暮らしをサポートする行政書士として、自由を謳歌するクライアントの方々を思い浮かべながら読み進めました。未だに(在宅)ひとり死を孤独死と呼ぶ「死に方差別」がある現代。私たちは、こうして「おひとりさま」のリアルを発信して下さる先輩方から、自由を享受する強さと、自立した心のあり方を学ぶことができます。
 〝普通″の押し付けは、ときに誰かの口をふさぎ、呪詛として後の世代まで引き継がれてゆきます。家族とは何か、どのような家族形態で暮らしていくのかといった問いに、唯一無二の「正しさ」を持ち込まず、多様な結びつきを認め合う社会をつくっていきたいものです。生き方の異なる他者を排除せず、人生をサバイバルする知恵と工夫を分かち合うためにも、皆さんもぜひ、本書を読んで頭の柔軟体操をしませんか? 誰もが孤立することなく、孤独を楽しめる社会になるよう、私も先輩の姿に学びつつ、後の世代への地ならしをしていきたいと思います。

◆渡邊愛里(わたなべ・あいり)
1989年、福島県生まれ、行政書士。
ジェンダーの視点に立って、おひとりさま、LGBT、事実婚、自立が難しい子供の親亡き後の問題等々、多様な人生のニーズに合わせて、法的な側面から問題解決をアドバイスしている。
著書に『行政書士のための新しい家族法務 実務家養成講座』。本書の紹介はこちらから。
また、昨年のブックトーク・婦人問題懇話会会報編に講師として登壇いただきましたが、その時の動画はこちらから。

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