モイ!(Moi! こんにちは!)
森屋淳子です.

 5月14日より再開した子ども達の学校/プレスクールも5月末で終わり,早くも夏休みになりました.
新型コロナによる影響はまだまだありますが,行動制限は徐々に解除されており,6月からは国内旅行も解禁に.
そんなわけで,家族で湖水地方にあるサボンリンナに行ってきました.
フィンランドでは,夏になるとサマーコテージへ行き,友人や家族と自然の中で“何もしない”時間を楽しむ人が多いそうです.

宿泊したコテージすぐ近くの湖.聞こえるのは鳥のさえずりだけ,という贅沢…



 今回の記事では,フィンランドでの子育てを通じて体験したりインタビューを通じて知ったフィンランドの子育て支援制度の中で,これは良いなぁ~と私が感じた制度をご紹介します.



1.出産前から家族をまるごと支える「ネウボラ」があります

日本でも,「ネウボラ」や「育児パッケージ」はよく紹介されているためご存知の方も多いかもしれません.ネウボラ(neuvola)とは,フィンランド語で「アドバイス(neuvo)の場(la)」という意味です.
フィンランドでは,全ての妊産婦・子育て期の家族を対象に,ヘルスケアセンター内にあるネウボラにおいて保育/医療サービスがワンストップかつ無償で提供されます.
妊婦健診,分娩,ワクチン接種,各種健診もほぼ無償です.医療や健康に関することだけでなく,子育てや家庭の問題など,その時々の悩みを相談でき,育児不安の解消や虐待の予防にも役立つ素晴らしい制度だと思います.



2.「待機児童」という概念がありません

 フィンランドの自治体には,保護者の申請から4ヶ月以内に保育の場所を確保する義務があります.
1973年に制定された「児童保育法」は1996年に法改正が行われ,両親の就労の有無にかかわらず,誰もが保育所に入れるという主体的権利が子どもに与えられました.
これは夜間保育や特別支援が必要な子どもに関しても同じです.「子どもが保育を受ける権利」と「両親への子育て支援」を両立させた素晴らしい仕組みだと思います.



3.自宅での保育は「Unpaid work(無償労働)」ではなく「手当て」が出ます

 もし保育所に預けず自宅で子どもを育てる場合には,「Unpaid work(無償労働)」でなく「自宅保育手当て」が出ます.
子ども(3歳未満)1人の場合,月々338.34€(約4万円)です.これは子どもの両親ではなく,祖父母や個人的に依頼したシッターの場合でも同様です.
今回のコロナ禍で,自宅保育せざるをえない家庭も多かったですが,その分の自宅保育手当て支給の案内も届きました.
 ちなみに,フィンランドには高齢の両親の扶養や介護の義務はありません.
基本的には国と自治体が責任を負い,もし家族や親族をケアワーカーに準ずる介護者とする場合には,2005年に制定された「親族介護支援法」という法律にのっとり,家族介護者は自治体と契約し,「介護報酬,月3日の休暇」といった労働の保障が得られるようになっています.
つまりフィンランドでは,親子であっても保育や介護の「義務」はない,と法的に定められており,「社会で育てる,介護する」という価値観が共有されています.
これらの制度は「仕事と子育て・介護の両立支援」という意味でも,「税金の使い方」という意味でも,とても合理的な制度だと思います.



4.産後3年間の身分保障を含めた,さまざまな育児休業制度があります

 「母親休業」以外にも,母親と父親のどちらが休んでも構わない「親休業」や,母親が職場復帰するときに父親が育児をするための「父親休業」の制度もあります.母親は約1年の出産・育児休業を取ることが多いですが,その後も子どもが3歳になるまでは自宅で子育てし,産前の身分で職場に復帰できる権利があります.
 しかし,長い休業補償制度が女性のキャリア形成を阻害する要因になっているのでは?という議論もあります.
また,フィンランドの男性の育児休業取得率は8割弱と高いものの,実際に取得する期間が3週間程度と短いのが課題となっているようです(日本とは問題になっているレベルが違いますが…).
そのため,2021年からは,父親休業と母親休業の日数を同じ(約7ヶ月間)にして,父親が子どもと接する時間を増やし,「家族のウェルビーイングや男女共同参画を推進」するそうです.
また1人親の場合は,両親に認められている休業をどちらも取得できるようになります.



5.保育所では朝食提供もあります

 フィンランドの保育所は一般的に朝7時から開いており,朝食を保育所で提供してもらうことも可能です.保育所の朝食はポリッジ(オートミールのようなお粥)やパンにハームとチーズを乗せたもの,など簡素なものです.それでも,朝早くに起こして寝起きの子どもに朝食を食べさせるのは大変なので,保護者にとって非常にありがたい制度だと思います.
 また,保育に必要なもの(洋服以外)は全て保育所で用意されるため,月曜に山のような荷物を持っていき,週末に持ち帰って洗濯するといった準備も不要ですし,遠足の時も,パンとフルーツを持参する程度で手の込んだキャラ弁等を作る必要はありません.こういう細かいところで,「親の努力」が要求されないのはラクだなぁ…と個人的に感じました.

ドラゴンクエストのお城のモデルというオラヴィ城@サボンリンナ.                                   このお城で毎年7月に開催されるオペラフェスティバルも,今年はコロナで中止,とのこと.残念です.



フィンランドの課題:それでも増えない出生率.「子どもを産まない」という選択肢.

 上記1~5に示したような充実した子育て支援制度より,フィンランドでは1人親であっても無理なく働きながら子育てすることができます.しかし,フィンランドのTFR(合計特殊出生率)は2010年1.87から,2019年には1.35にまで急激に低下しています.
 この要因については色々な可能性が議論されていますが,そのうちの一つとして「個人化」により,「子どもを産まない」という選択肢を選ぶ人が増えてきたことが挙げられます.
「母親になる」という以外の女性の生き方も尊重されるようになってきているのでしょう.



日本でできることは何か?

 以上,フィンランドの子育て支援制度と課題について紹介しました.課題に挙げたとおり,「子育て支援を充実させれば,少子化は改善される」という単純な話ではなさそうです.
それでも,「たとえ1人親であっても,無理なく働きながら子育てできる社会がある」という事実は,私にとって大きな驚きでした.
日本でもさまざまな子育て支援制度はありますが,「あっても使えない制度」が多すぎるため,「使うためにある制度」が必要です.
また,制度を整えるだけでなく,根底となる理念が必要です.
「子育ては母親だけでなく,父親はもちろん,社会全体でするもの」,「子ども達こそが私たち社会の未来」というフィンランドの理念が,日本でも広まることを願います.

散歩中に遭遇した白鳥の親子連れ.白鳥の子が白くないというのは本当でした!



「フィンランドで見たジェンダー意識と子育て支援」バックナンバー

第1回(2020/2/10): “34歳女性首相”が誕生する社会

第2回(2020/3/10): 休むことはお互い様

第3回(2020/4/10): フィンランドの新型コロナ対策

第4回(2020/5/10): フィンランドの遠隔授業に思うこと