モイ!(Moi!こんにちは!)
森屋淳子です.
7月にフィンランドから日本に帰国し,2週間の自宅待機も無事に終わりました.
久しぶりの日本.消費税が10%に上がっていたり,レジ袋が有料化していたり,街中の人が皆マスクをしていたり….色々な変化に驚きつつも,懐かしい友人達との再会を喜んでいます.
こちらの連載は,帰国後もしばらく継続させていただく予定ですので,どうぞよろしくお願いいたします.
さて,今回は次男(6歳)の緊急手術・入院体験談を.
実は6/20,ユハンヌス(夏至祭)という夏の到来を祝う日に,次男が木登りで遊んでいたときに木から転落してしまいました…涙.
夜中じゅう痛がるため,翌日日曜午前の朝一番に近くの私立病院を受診したところ,右肘骨折との診断で,すぐさま大学病院の小児救急外来へ紹介となり,緊急手術となりました.

別名「子どもの城」と呼ばれるNew Children's Hospital.虹色の外観が素敵です.
異国での予期せぬ出来事であり,母親としては本当に大変だったのですが,医療従事者としては,なかなか得難い貴重な体験をすることができました.
そういうわけで,今回は,母親目線かつ医療者目線で観察したこと(緊急手術・入院編)を紹介します.
1.全身麻酔の緊急手術後,当日退院となりました.
当日の経過は下記のようでした.
9時:オンラインで予約した私立病院を受診.
10時:骨折判明後すぐに大学病院のNew Children's Hospitalに紹介.
10時半:小児救急外来受診.
15時半~:緊急手術(私も次男に麻酔がかかるまでは手術室に同伴).
17時前:整形外科病棟へ.
18時:夕食.
19時:当日退院!
当初,13時頃から開始予定だった手術が,前の手術がおした関係か? 15時半開始となりましたが,それ以外は休日だったにも関わらず,非常にスムーズで本当にびっくりしました.
フィンランドでは,日帰り手術が非常に多く,お産も問題なければ,2日で退院となります.
日本では「念のため,一泊入院して明朝退院」となるであろうケースも,フィンランドでは「自宅で経過をみて,何か問題あれば連絡して!」というスタンスのようで,入院日数を短くすることで医療費削減になるんだろうな…と感じました.
2.共通カルテで,私立病院→大学病院への紹介がものすごくスムーズでした.
フィンランドでは電子カルテが社会保障番号(日本でいうマイナンバーのようなもの)に紐づけされており,患者自身がカルテ情報の共有範囲を選べます.
共通カルテのため,私立病院で撮影したX線写真や診察内容が国立の大学病院でも見られます.紹介状もペーパーレスで電子的に大学病院へ送られました.
日本では紹介状を印刷したり,X線写真のデータをCD-ROMに入れたり,他院へ紹介するにも様々な事務手続きの手間と時間が発生するのですが,そういった手間や時間が大幅に節約されます.
また,共通カルテだと,薬の重複処方や検査の無駄が省けるうえに,別の病院を受診するごとに同じ質問に答える必要もないため,非常に有用だと思います.
3.手術前の説明は非常に簡潔で,ペーパーレスな上にサインレスでした.
日本で手術すると,色んな合併症や副作用等が書かれた紙の書類を渡されて,そこに署名したりハンコを押したりするのが一般的ですが,フィンランドでは,説明はすべて口頭で,どこかにサインをする,ということも一切ありませんでした.
長年フィンランド在住している方に聞いたところ,「フィンランドでは患者が医療者を訴えるということもないからねぇ…」とのこと.
COVID-19についても,体温を測って,症状の有無を聞くだけ.
全身麻酔をかけるのに手術前の採血検査等も全くなく,これでホントに良いの??と拍子抜けするくらいでした.
4.子どもの自己決定を尊重するちょっとした工夫が素晴らしかったです.
日本だと「白色」=「病人」というイメージがあるギプスの色.フィンランドでは,手術を始める前に「ギプスの色が選べるんだけれど,赤,青,白のうちどれが良い?」と子どもに選ばせてくれました.
手術前はグッタリしていた次男も,手術後にはいつもの笑顔が戻り,自分で選んだ赤いギプスをつけて,とても誇らしげな様子でした.
子どもの自己決定を尊重するちょっとした工夫とデザインの取り入れ方が,とても素晴らしいと感じました.

退院時に病棟で.三角巾も紺色かつ病人ぽくないデザインでした.
5.日本語しか話せない次男のための対応がありがたかったです.
フィンランド語も英語も分からない次男のために,麻酔が効いて本人の意識がなくなるまでの間は,母親である私も手術室に同伴させてくれました.
私もフィンランド語は話せないのですが,病院スタッフが,皆,英語で普通に対応してくれたので大変助かりました.
また,術後に経過観察で入院した病室では,子どもが楽しめるように1人1台(!)のiPadが用意されていたのですが,私が病室に到着した時には,スタッフの方が次男にYoutubeの日本語番組を選んで見せてくれており,ちょっとした心遣いが嬉しかったです.

病室でiPadを見る次男.子どもが落として壊れないように丈夫なカバーが.
6.デザインが病院全体に当たり前のように取り入れられていました.
さすが,ムーミンの国フィンランド!救急外来にも病棟にもエレベーターにも,ムーミン作者のトーベ・ヤンソンさんの絵やデザインがあふれていました.
こちらから,病院内バーチャルツアー(英語)に参加できますが,ざざっと写真で紹介します.

小児救急外来の待合室

手術待機室.ベッドに横たわる患児が不安がらないよう,天井にもアートが

病棟.階ごとにテーマがあり,次男が入院したのは宇宙の階でした

エレベーターにもムーミン谷の彗星のイラストが

病棟のプレイコーナー.病棟のテラスからの眺めも素晴らしく,ここはホテルか?と思うような空間でした
7.その日に関わった医療者がすべて女性でした.
私立病院で診てくれた小児外科の医師や放射線技師も,大学病院の救急外来の医師や看護師も,手術を担当してくれた執刀医も麻酔医も,病棟でお世話になった看護師も,皆,女性でした.(もちろん男性の医療者も見かけましたが…)
フィンランドでは,女性医師の割合が58%と過半数を超えていますが,夏至祭がある週末の日曜日だったにも関わらず,全員女性とは…!
私の中にある「無意識の偏見」に気づきました.
さらには,看護師の行える医療行為の範囲もとても広く,日本の病院とは見える風景が全く違って,非常に興味深かったです.
以上,簡単ではありますが,フィンランドでの医療体験(緊急手術・入院編)をお伝えしました.
病院全体から「ケガや病気で落ち込んでいる子ども達が,少しでも楽しめるように」という思いが伝わってきて,私自身,ポジティブな気分になれました.
これだけ素晴らしい医療が,フィンランドに住民登録していると非常に低額で受けられます.
後日届いた大学病院からの請求額はなんと48.9€≒6000円弱!(私立病院は510€もしたのですが…汗).
「公的サービスとしての医療」の範疇をはるかに超えた,デザイン×医療の力を実感しました.
また,単に「見た目の良さ」を追求するだけでなく,その背後に感じられた「患児とその家族への温かいまなざし」にも感銘を受けました.
フィンランドで得られた視点を,今後の診療にも活かしていきたいと思います.
モイモイ!(Moi moi! さようなら!)

フィンランド最終日の朝散歩.白鳥のひなが大きくなっていました
・・・
「フィンランドで見たジェンダー意識と子育て支援」バックナンバー
第1回(2020/2/10): “34歳女性首相”が誕生する社会
第2回(2020/3/10): 休むことはお互い様
第3回(2020/4/10): フィンランドの新型コロナ対策
第4回(2020/5/10): フィンランドの遠隔授業に思うこと
第5回(2020/6/10): フィンランドの子育て支援制度と課題
第6回 (2020/7/10) : 夏休み中の伝統!公園での無料昼食サービス
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