私は、近代日本の中流住宅に関する博論研究をしていた際に、『日本女性生活史』第4巻(1990年)に掲載された論文を読んで、西川祐子さんの研究に初めて出会いました。この論文は、文学作品や民俗学、工場住宅の調査報告や間取り図の例など、幅広い資料と課題を扱うものでした。しかし、私にとって特に重要だったのは、西川さんが近代核家族(家庭)のイデオロギーをいわゆる「家制度」の対極としてではなく、対概念として考察していたことです。この論文は、私にとってちょっとした啓示でした。それまでは、私は建築史の観点から住宅を研究していましたが、ジェンダーの視点を持たない建築史家は、近代家族をまったく問題視していませんでした。この論文と、それに続く戦後の住宅に関する論文を読むことで、私の研究アプローチは一変しました。また、『借家と持ち家の文学史』も大いに感銘を受けました。

増補 借家と持ち家の文学史: 「私」のうつわの物語 (956;956) (平凡社ライブラリー 956)

著者:西川 祐子

平凡社( 2023/11/06 )

日本女性生活史 第4巻

著者:女性史総合研究会

東京大学出版会( 1990/08/01 )

1999年に京都で二度、それから少し後に西川さんがアメリカを訪れた際に、私は結局彼女と数回お会いする機会があっただけです。当時私は、近代日本の住宅に関する自分の本をまだ執筆しようとしていました。彼女の影響がどれほど大きかったかを伝えることはできなかったと思い ます。もはやその機会がないのがとても残念ですが、ここにお礼を述べたいと思います。