コロナ支援金制度で風俗従事者が支給対象外とされていた問題は、4月7日に厚労省が不支給要件の見直しを発表したことで一歩前進した。

事の発端は4月2日セックスワーカー団体SWASHが厚労省に抗議文を提出したことがきっかけでメディアの報道に火がつき、すぐに国会では寺田学衆議院議員、柚木道義衆議院議員、石川大我参議院議員が加藤厚労大臣や菅官房長官らに質問、世論も形成され、菅官房長官の不支給要件の見直し発言に繋がった。この素早い展開はまさにコロナ禍の有事を象徴する出来事だ。(そのコロナ禍の群衆心理については別稿で今書いているのでそちらも参照されたい。筆者のFBをフォローされたい。)

もちろん、コロナ禍であるという条件だけで事がうまく進んだわけではない。普段から差別の問題に取り組んでいなければ、対応できない難しい問題が色々ある。例えば、「フリーランスへの支援金制度」というものへのきな臭さに、人々は早く感づき指摘することができただろうか(できなかった)。現に、ある風俗関係者は、「自分たちは(支援金を)当然もらえないものだろうと思っていた」と早々に想像できたと語る。

今回問題になった支援金制度は3月18日から申請が始まっているが、SWASHが抗議文を出す前に、筆者は「不支給 風俗」などで検索していたが、団体や個人でこの問題に焦点を当てて公に指摘している人はいなかった(ITジャーナリスト神田敏晶氏がフリーランスがもらえる支援金について解説したyahoo記事で1行だけ触れていた)。つまり、恒常的に風俗差別の問題に目を光らせて取り組む団体がほとんどないということを表しているのではないか(もちろん知っていたけど忙しくて指摘できなかった人もいるだろう。そういうときはSWASHに知らせてくれれば(^▽^)/)。

こうした問題対応に必須のその他の条件としては、長年の活動で蓄積された社会的ネットワークのチームワークの体力と経験が最も重要だ。特に風俗のような複雑でセンシティブでスティグマの強い問題を、国会のような、さらにやっかいさの上塗りをする俎上に載せる場合、国会質疑でのリスク回避ととれ高シミュレーションは、風俗に関するあらゆる知識と議論に精通しているだけでは駄目だ。ロビーイング、政局分析、議員についての知識等々に優れた人材に関わってもらわないとSWASHだけでは無理だ。こういう肝心なところ(スポークスマンと国会対応)で失敗すると、むしろセックスワークスティグマを助長したり、かえって問題を悪化させることにもなりかねない。そうなると、「SWASH何してくれてんねん」と袋叩きだろう。だからこれはとても高レベルな専門集団の対応能力が求められるステージといえる。このステージの橋を一番最初に渡る役はすごく勇気がいるし、精神的消耗の覚悟がいる(だから私は先月3月の間、他にやってくれる人が出てくるのをじっと待っていたことを告白する…)。

段階別における熟練の分別には例えば、今回は、風俗の人々に関するニュースなんか埋もれてしまいそうな、大型の給付金問題や緊急事態宣言という大きな政治がいつきてもおかしくないという社会状況を鑑みて、署名活動という時間の読めない手法をあえて断念した(もちろん平行してやってもよかったが)。時間優先で抗議文と新聞記者と議員への根回しに集中するところから始まり、国会質問で柱にしてほしい話、文脈確認、避けてほしい話などを短時間の打ち合わせで決めていった。幸い、SWASHの普段からのネットワークには風俗関係者だけでなく、HIV陽性者の人々、セクシュアルマイノリティ、シングルマザー、性暴力のサバイバー、困窮者支援、外国人支援、非正規労働者支援、風営法の専門家等々、セックスワーカーが重なるマイノリティの当事者団体や、様々な支援や社会的排除の問題に取り組む人々がたくさんいて下さる。そういった人たちが一緒になって考えてくれたり動いてくれたことが、リクス回避ととれ高を保障した。マイノリティの彼ら彼女らは、セックスワーカーと同じようにスティグマと長年闘ってきているから、その闘いの経験から得た財産を私たちが困っているときに分かち合って頂けるのである(あとで恩返ししなければいけない)。

社会活動関係だけではない。昔からの知り合いの記者や議員秘書、霞ヶ関関係者らとのつきあいと信頼関係も功を奏した。内々に情報が入る、すぐにほしい資料が手に入る等、初対面では聞けないこと、お願いできないようなことがお願いしやすい、それによって間違った行動が回避できたり迅速な判断ができる。彼ら彼女らのほとんどは向こうからニュースをみたと連絡してきてくれた。こういうとき、活動を長年継続していることの成果が表れる。

風俗従事者も支援金を申請できるようになったいま、これから着手することにも今回力を合わせた人々とのコミュニケーションは欠かせないし、なにより、今後の展開も予断を許さない。引き続きこの一連の出来事が快方に向かうこと、コロナが終わって振り返ったとき、このアクションが政治的に間違ってなかったと言えるよう、まだまだ気を引き締めて臨みたい。

抗議文を出してまだ1週間しか経ってないので振り返るのは早いが、改めて思うのは当事者団体の存在の大きさだ。自画自賛ではなく社会的有用性、闘い方の援用性として書いているが、コロナ禍と他の差別に目を向けても言えることだ。ホームレスは緊急事態宣言発動によってネットカフェが使えなくなることの不安を訴えてるし、政府はマスクを配ろうとしているが、ろう者は口元で会話が理解しづらくなることを皆に知ってほしいと言っているし、コロナに関する総理大臣会見などで、手話通訳者のワイプが表示されない、もしくはカットするテレビ局が多くろう者は情報から排除されてしまう。有事の際は外国人移住労働者は不法入国の目で見られやすくなったり、コロナに感染しやすい仕事に真っ先に就かされるのも外国人移住労働者だ。といったように、当事者でなければみんな気付かないことがたくさんある。だからこそ、今回のコロナ禍をきっかけに差別の問題を平時のときから考えるようになってほしいし、マスコミや議員や政府関係者は、当事者や当事者団体からまず意見を聞くべきだ。要望書を出した団体ということもあって今回は議員の方々もほとんどのマスコミも私たちに連絡をしてくれ、今回、非当事者にコメントを求めたのはNHKの一部のニュース番組だけだ。

最後に、こんなどさくさにまぎれて、コロナ支援金の風俗従事者への不支給問題を、とても許しがたいアクションに利用されていた事実を、みなさんにとても知ってもらいたい。

今回の問題にかこつけて、3名の大学教員からある要望書が厚労大臣宛てに提出されていた(資料参照)。その要望書で書かれていた内容は、風俗従事者への支援金支給の要望とともに、「性搾取にほかならない性風俗営業」とか、悪い意味での文脈で「買春」という言葉が使われていたり、「性風俗営業以外の職につくための支援」が先進国として本来の対応だとか、今回の問題に関して当事者たちが最も訴えたいこと以外の、非当事者が考えた勝手な「思い」がたくさん書かれていた。要望書を読んでみるとわかるように、明らかに性風俗が社会に存在していること自体を問題視している内容だ。言うまでもなく、要望書を出した彼ら彼女らは、筋金入りの風俗撲滅運動の活動家で昔からあちこちで買春反対、性産業の違法化を唱えている人々だ。これでは、支援金のことよりも、むしろ言いたいのはそっちのほうかと思われても仕方がない内容となっている。

この要望書のような「問題の二次利用」は氷山の一角で、相変わらず巷では、「風俗従事者が支援金をもらえないのはひどすぎる、なぜなら彼女たちは…」の後に続く言葉として、「風俗なんかせざるを得ない事情を抱えたかわいそうな女性たち」「子どもを育てるシングルマザーがいるんだから」「精神疾患や障害のある人も働いているというのに」といった、その人の弱者性に太鼓判を押すことでしかセックスワーカーの人権や差別反対を受け入れられない人々で溢れている。重要なのは、セックスワーカーはいま何を求めているのか、どのようなニーズがあるのかがすべてだ。

とか言いながら筆者も筆者の同志のワーカーたちも、今回はお金(不支給見直し)のためにそういうお涙頂戴のイメージプレイにこの時間に限り一瞬つきあったりもし、お涙頂戴の署名活動に署名した。背に腹は代えられない。仕事で客とイメージプレイしたり、活動・社会・政治の場面で、パターナリズムな人々に何かしらのカタルシスを提供することで、生存権と生活費を守れるのであればいくらでもかわいそうな役柄を演じるし我慢もする。そしてお金をちゃんともらえた後は、待機室で「あのイメージプレイは気持ち悪かったね」と同業者どうしで愚痴り合うのである。当たり前だ、すべてはお金のあるところからないところへお金が流れるためだ。再分配の実践者として生き延びるこのみんなの逞しさといったら。さすがセックスワーカー。ただ、一言言わせてもらうと、風俗の客に良客、神客が増えてほしいと働いてるみんなが思っているように、活動・社会・政治の場面で、お金をチラつかせてお涙頂戴プレイにつきあわせたがる人は確かに減ってほしい。

(以下資料。3名の大学教員から厚労大臣宛てに提出された問題のある要望書)
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厚生労働省 厚生労働大臣 加藤勝信様

「新型コロナウィルス感染症による小学校休業等対応支援金(委託を受けて個人で仕事をする方向け)支給要領」に対する抗議と要望〜性風俗に携わる女性たちに支援金をただちに支給してください〜
厚生労働省は標記の文書(2020年3月10発表)で、接待飲食営業や性風俗関連特殊営業で客の相手をする業務に携わる女性たちへの「新型コロナウィルス感染症による小学校休業等対応支援金」を支給しないことを取り決めています。私たちはこうした差別的処遇に抗議し、接待飲食営業や性風俗関連特殊営業で客の相手をする業務に携わる女性たちへ、同支援金を支給することを要望します。

厚労省は、標記の文書の「11 不支給要件」の①で、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」の第2条第4項に規定する「接待飲食等営業」、同条第5項に規定する「性風俗関連特殊営業」等を行なっている事業所において、「a.接待業務、b.異性の客に接触する役務に係る業務、c.性的な行為を表す場面若しくは衣服を脱いだ人の姿態を見せる業務または性的好奇心を満たすための交際・会話を希望する者に対する音声による会話の業務に従事する者」に対して同支援金を支給しないとしています。これらの業務を行なう者とは、キャバクラ等で客の接待をする人々、ソープランドやデリヘル等で客の相手をする業務に携わる人々等を指していると思われます。そしてそれらの人々のほとんどが女性です。

現代日本は貧富の格差とジェンダー不平等が著しい社会です。なかでもシングルマザーの貧困はひときわ深刻で、多くのシングルマザーが安定した職業につくことができずにいます(厚労省調査https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html)。そのため、貧困から脱するために、性搾取にほかならない性風俗営業で、買春の対象となることを余儀なくされているシングルマザーたち、シングルではないが子どものいる困窮した女性たちが数多くいます。そして、キャバクラ等や性風俗営業では、客の相手をする女性に対する給料未払い問題、ヒモや借金による人身拘束など、著しく不当な現状が現代でも横行しています。

以上からわかるように、接待飲食業や性風俗営業で客の相手をする業務に携わる女性たちの多くは、むしろ標記の支援金を最も必要とする人たちなのであり、不支給は絶対にあってはならないことです。そして、本来ならば、本人の要望に応じて、休業後に性風俗営業以外の職種につく権利を保障し、そのための経済的・法律的・医療的支援が行なわれなければなりません。ちなみに、スウェーデンや韓国では、性風俗営業で客の相手をする業務に携わる女性たちが、フェミニストを含む各地の人権センターで様々な相談を受けられるようになっており、シェルターに身を寄せたり、政府から支援金を得て性風俗営業以外の職につくための支援を受けることが可能となっています。それが性風俗営業で客の相手をする業務に携わる女性たちに対する先進国の対応です。

以上に鑑み、私たちは接待飲食営業や性風俗営業で客の相手をする業務に携わる女性たちが、同支援金を受け取ることができるようにすることを強く要望します。
      
                   2020/04/6

小野沢あかね(立教大学教授)、金富子(東京外国語大学教授)、中里見博(大阪電気通信大学教授)

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※ほかにもPAPSが4月5日に同じような要望書を厚労省に提出している。

要友紀子(SWASH、Sex Work and Sexual Health