モイ!(Moi! こんにちは!)
森屋淳子です.
インフルエンザワクチン接種のシーズンとなりました.この2020年冬は新型コロナウィルス感染症の流行が懸念される中,例年より早くインフルエンザワクチンを接種される方が増えています.今回は昨年2019年11月にフィンランドで体験したインフルエンザワクチン接種について驚いたことをご紹介したいと思います.

2019年11月 滞在していた大学寮から見えた幻想的な夕焼け@16時半.サマータイムも終了し,暗くて長い冬の到来です.
1.予約不要,無料のワクチン接種週間がありました.
フィンランドでは,11月にインフルエンザワクチン接種週間があります.
重症化リスクの高い人(妊娠中の人,65歳以上の人,7歳未満の子ども,基礎疾患のある人など)と医療従事者や兵役につく人は,特定の時間に特定の場所に行けば,予約不要,無料でワクチンが受けられます.
なお,今年に限っては新型コロナ対策のため,予約不要ではなく完全予約制になっているようです.
電話予約は混み合うから…ということで,オンライン予約を推奨しているのがさすがフィンランド,という感じです.

ヘルシンキ市のホームページの英語サイト.無料インフルエンザワクチン接種の案内です.
その期間中は病院だけでなく,スポーツセンターなど街にある複数の施設でワクチンを打てます.
また,フィンランドでは16時に仕事が終わることが多いのですが,仕事帰りにも打てる時間の設定になっていました(月~木が8時半~18時まで,金は8時半~15時まで).
次男は当時6歳だったため高リスク群であり,妊産婦・子どもネウボラでインフルエンザワクチンを接種するように,とホームページに書かれてあったため,住まい近くの妊産婦・子どもネウボラを受診しました.
*妊産婦・子どもネウボラとは?
ネウボラとは,フィンランド語で「アドバイス(neuvo)の場(la)」という意味です.妊産婦・子どもネウボラは,出産前の妊娠期から小学校就学前の時期を中心にすべての子育て家族の育ちをまるごと支える制度であり,家族を専門医へつなぐハブ機能も果たす地域拠点です.
どの自治体にもネウボラがあり,フィンランド全体で約850ヶ所のネウボラがあります.すべての妊婦・未就学の子どもを対象に,ヘルスケアセンター内にあるネウボラにおいて保健・医療サービスがワンストップかつ無料で提供されます.
ネウボラは,医療や健康に関することだけでなく,子育てや家庭の問題など,そのときどきの悩みを相談できる場所でもあります.
2.「重症化リスクの高い人と身近に接する人」も無料でワクチンが打てました.
実際に次男(当時6歳)を連れてネウボラに行ったところ,案内してくれた保健師さんから「お兄ちゃんやあなたもワクチン受ける?」と高リスク群ではない長男(当時9歳)や私(母親)の接種希望も聞かれ,その場で社会保障番号を提示するだけで,ワクチンが無料で受けられました.
あとで分かったのですが,ホームページに“If you wish to protect your family member or friend from influenza, come and have the vaccination! The vaccination is free of charge for you.”と書かれてあるとおり,高リスク群でなくても,家族や友人をインフルエンザから守りたい場合には,無料でワクチンが受けられます.
「重症化リスクの高い人をインフルエンザから守るためには,本人だけでなく周囲の予防も大切」というのはよく言われることですが,実際にワクチンの無料化までされているとは! 政府の税金の使い方に感銘を受けました.
3.未就学児は鼻スプレーの選択肢もありました.
未就学児は注射型ワクチンか経鼻ワクチンかを選べました.ワクチン注射を嫌がる子ども達に注射するのはとても大変ですが,もし鼻スプレータイプが選べたら医療者も親も子どももラクで良いですよね.
経鼻ワクチンは,日本でも承認申請中だそうですが,痛みもなく簡便で,子どもも喜んでいました.また,1回接種でよいのもありがたかったです.
4.小児のワクチンも医師でなく「保健師」が注射します.
私だけでなく,長男(当時9歳)の注射型ワクチンも医師でなく,保健師が打ってくれました.フィンランドでは,タスクシフティングが進んでおり,保健師にできることが非常に多いです.
日本では医師が中心となって行う妊婦健診や乳幼児健診も,フィンランドではネウボラの担当保健師が中心となって行います.
また,電子カルテの記載や事務的なことは,保健師とは別の担当の方が行っていました.音声入力も普通に利用されており,非常に効率的な印象を受けました.
このような医療における「タスクシフティング」と「ICT活用」は,今後日本でもまだまだ改善される余地がありそうです.
5.Kelaカード申請中の私たちですら無料で接種してくれました.
実は私にはこれが一番の感動ポイントでした.受診した当時,住民登録は済ませていて,社会保障番号(日本でいうマイナンバーのようなもの)も持っていたのですが,Kela(日本でいう健康保険)は申請中で,まだ未加入でした.
Kelaに加入すると公立の医療機関をかなり低額で利用できるのですが,Kelaの加入には数ヶ月程度かかります.そのため,自費でお支払いする必要があるのかしら? と思っていたのですが,「なるほど.Kela申請中なのね~社会保障番号があるなら大丈夫よ~」と全く問題なく,無料で受けることができました.
日本だと,たとえ住民登録されていても,健康保険証の期限が1日でも切れていれば,「申し訳ないですが,期限が1日切れていますから…」と全額負担になりそうですよね??
そういうことを医療者として数多く経験してきて,今回も多分そうだろうな,と思っていただけに,この対応には本当にビックリしました.
6.ワクチン接種からの健診予約!
インフルエンザワクチン接種の場で,「あなたの次男さんは6歳なので,ネウボラの幼児健診の対象になりますよ.健診の予約を取りますか?」と,次男の6歳時健診の予約も取ってくれました.ワクチン接種の機会を逃さず,健診に誘導するシステムは見習いたいと思いました.
ちなみに,インフルエンザワクチンの接種に関して,これだけ手厚いフィンランド.
ところが,実際にインフルエンザにかかっても医療機関を受診する人は少なく,もし受診したとしても重症化リスクが高くない健常者の場合には,「3日間,解熱剤と水を飲んで寝ていれば治るわよ」という“塩対応”が一般的です.
この背景には,医療に過度に依存しない文化や,仕事を休みやすい文化や制度があると思います.
第2回のレポートで紹介しましたが,フィンランドでは「体調が悪いときには休むのが当たり前」という認識が社会で共有されており,「長い目で見ると,体調が悪いのに無理して働いた方が社会的損失が大きくなる」と長期的かつ広い視点で物事をみる習慣があります.
以上,フィンランドで驚いたインフルエンザワクチン接種の体験談を紹介しました.
今年は日本でも,さまざまな自治体でインフルエンザワクチン接種の無償化や助成が行われていますし,「体調が悪いときは仕事を休むように」という姿勢も徹底されてきているように感じます.
新型コロナの影響で,色々と悲しくなるようなことも多いですが,その反面,今までの働き方,休み方,医療の在り方などを見直す良いキッカケになっているとも感じています.
モイモイ!(Moi moi!さようなら!)

2019年11月.プレスクール帰りの次男とシベリウスモニュメント
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「フィンランドで見たジェンダー意識と子育て支援」バックナンバー
第1回(2020/2/10):“34歳女性首相”が誕生する社会
第2回(2020/3/10):休むことはお互い様
第3回(2020/4/10):フィンランドの新型コロナ対策
第4回(2020/5/10):フィンランドの遠隔授業に思うこと
第5回(2020/6/10):フィンランドの子育て支援制度と課題
第6回 (2020/7/10) :夏休み中の伝統!公園での無料昼食サービス
第7回(2020/8/10):フィンランドの医療体験(緊急手術・入院編)
第8回(2020/9/10):フィンランドの医療体験(外来編)
第9回(2020/10/10):フィンランドでは女性医師が過半数!
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