-マイノリティ女性の複合差別問題に取り組む 多原良子さん-

2016年10月、東村高江周辺の米軍ヘリパッド建設抗議活動を行う市民に対する機動隊員の「土人発言」は記憶に新しい。差別という言葉では語り切れない。この言葉の背景には、明治の琉球処分から続く沖縄戦、米軍統治時代、本土復帰を経ても依然としてある本土側の沖縄に対する「植民地」意識があるようだ。

北海道民もこの言葉に無関心ではいられなかったはず。何故なら、明治32年に制定された「北海道旧土人保護法*」が平成9年(1997年)まで施行されていたからだ。これは、アイヌの人達を日本国民に同化させることを目的に、土地を付与して農業を奨励することをはじめ、医療、生活扶助、教育などの保護対策を行うものとされているが、明らかに沖縄と同じ構造がみえる。

このような差別構造の中からマイノリティ女性の実態を「複合差別」と位置づけ、社会運動を行っているのが多原良子さん(たはら りょうこ、1953年生まれ、北海道鵡川町出身、札幌アイヌ協会副会長 他)。

多原さんが被差別体験をしたのは40代。アイヌ民族のための組織で働くが、男性中心のアイヌの組織にも、マジョリティの女性が中心の女性組織にも自分の居場所を見つけ出せずにいた。そんな中、2002年、IMADR(反差別国際運動、NGO)が呼びかけたマイノリティ女性の集まりに参加し、初めて部落女性や在日コリアン女性と出会い、「複合差別」について知り、強い刺激を受けた。自分達の状況を可視化するため、2002年11月「アイヌ女性の複合差別問題フォーラム」開催、2003年には、マイノリティ女性の実態調査の一環としてアイヌ女性に対するアンケート調査を初めて行った。

以来、多原さん達アイヌ女性は国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)による日本審査への参加、マイノリティ女性フォーラムの開催、CEDAW勧告の実施を求めた政府交渉などの活動を粘り強く続けてきた。その一方で、アイヌ女性の間での問題共有、差別との闘い、失われた文化の回復などに取り組んできた。2016年2月のCEDAW審査にはアイヌ女性3人がジュネーブに行き、先住民族の女性として置かれている情況を訴え、CEDAWからアイヌ女性あるいは先住民族女性が直面する課題への措置を政府に促す勧告が出された。こうした活動が効を奏し、政府のアイヌ政策に関する協議会で、これまで決して言及されなかった「アイヌ女性の問題」が取り上げられるようになった。さらに、国連女性差別撤廃委員会が公表した日本政府に対する最終見解で、アイヌ民族や在日外国人の女性が置かれている民族と性別による「複合差別」の是正に向け、差別禁止法の制定など8項目の勧告が盛り込まれた。同委が複合差別で勧告するのは2003年と09年に続いて3度目なので、政府が勧告を実行するよう継続的に働きかけて行く。

また、2017年4月、アイヌ民族の女性が受けている民族と女性による複合差別の解消を目的とした全国組織「アイヌ女性会議―メノコモシモシ」を設立し、多原さんが代表に選出。2020年、食に関する先住民族の世界集会「先住民族テッラ・マードレ(ITM)」の道内開催を目指す。アイヌ語で「メノコ」は女性、「モシ」は目覚める。ITMは地域伝統の食文化を見つめ直して持続可能な社会の構築を目指すスローフード運動の一環。道内開催の機運を盛り上げるのが目的で、アイヌ料理を提供したり、食をテーマに勉強会を行ったりする事前イベントも10月開催。

*「北海道旧土人保護法」は1997年7月1日、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の施行に伴い廃止された。

YUKO ITO 著

多原良子さん(写真左)  北海道新聞2016年2月13日朝刊掲載



WANシンポジウム2017 “自分ゴト”から始まる社会づくり 半径3メートルをこえて―

~オープニングセッション「陽の当たらなかった女性作曲家たち」より 石本裕子ピアノ演奏~

1.開会挨拶 工藤遥 WANシンポジウム2017実行委員

2.基調講演 さあ、「社会を変える」を始めよう
  講演者  田中優子 法政大学 総長

3.事例報告 “自分ゴト”から「社会を変える」実践
  報告者 鎌田華乃子 特定非営利活動法人 コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン 代表
      武村若葉 Change.org 広報スタッフ
      下郷沙季 札幌学生ユニオン 執行委員
      美馬のゆり 公立はこだて未来大学 教授

4.パネル討論/振り返り “半径3メートル”をこえるために
    ファシリテーター 石井布紀子 特定非営利活動法人さくらネット 代表理事

5.総 括  上野千鶴子 認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク 理事長


【日 時】2017年5月20日(土)
     12時開場、12時40分~オープニングセッション、13時~16時30分シンポジウム
【会 場】札幌市男女共同参画センター3階 ホール (札幌市北区北8条西3丁目 札幌エルプラザ内)
【参加費】1,000円(WAN法人正会員は無料)
【主 催】認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)
【共 催】札幌市男女共同参画センター
【申込・連絡先】札幌市男女共同参画センター 事業係
        TEL:011-728-1255/FAX:011-728-1229/MAIL:jigyou@danjyo.sl-plaza.jp
【申込方法】FAX・Eメールでの申し込みの場合、氏名、住所、電話番号、年齢などを記載して下さい。


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