20240331 アドバンスコース受講レポート 前田

 3月31日、東京某所での最終ゼミを終え、最終便の新幹線のなかで「最終ゼミまで生き残った…」という安堵の気持ちや、とにかく脱落しないようにひっしに追いつこうとした後の脱力、一年が終わってしまった寂しさ、まだ結論が十分に検討しきれていないところの未練…、いろんな感情がないまぜに押し寄せてきました。1年前、上野先生が「26人、ちょっと多いかもしれないけど、最終的には15~6人になってるでしょう」と予言されていましたが結局その通り、様々な理由で1人、また1人と離脱されていくなかで、発表するかしないかは立候補制、次に進むかどうかも自己選択、やろうとしたらできない自分に向き合うことになって、これが本当にしんどい、でもやらなければ進むこともできない。やっと発表したものに、ようしゃなく傷口に塩的な鋭いコメントがとんできて…。思い返せば、痛いところ、つまり曖昧にしていたところや、当たり前のものとしてノイズが感じられなくなっていたところを揺さぶっていただいていたのだと思います。
 幸運にも、1年間という短くも濃いアドバンス・コースに参加することができたことは、これから研究を進める上でなにものにもかえがたい経験になりました。

WANacⅠ期を終了して
清水

 この一年、私たちは上野先生に研究の作法を教えていただいた。文字通り直々に。
 身の回りの疑問を解きたい。ひとりひとりの研究動機はそんな手の届く素朴なものから出立した。しかし、「研究をする」「論文を書く」と断言しても、いざ書くとなると気持ちだけでは進まない。問いを立て、対象と方法を設定してスタートラインに立つことも一筋縄ではいかなかった。身の回りの疑問を研究の問いに仕立て上げるところから、まさに手取り足取りのご指導を頂き、私たちはひなが育つように、研究計画書、上野式KJ法、目次の作成、サンプルチャプター、オーラルプレゼンテーション、論文作成へと各自のペースで進んだ。
 そして、忘れてはいけないのが、上野先生はもちろんのことピアの存在がどれほど大きかったか。問いも対象も方法も異なる研究を前に四苦八苦する仲間が上野先生の引き出しを次々と刺激してくれた。二十人で上野先生に向かえば、それだけ開く引き出しも増える。苦しいのは、躓いてくれた方が実は引き出しが沢山開いておいしい思いができること。だからといって私は仲間の躓きを願ったことはありません、と今後のためにも付け加えておきたい。回を重ねるごとに、それぞれの研究のつながりも見えてきて、研究の進捗を聞くのが楽しみだった。
 と、このように一年を振り返っていると切りないのだが、なんとかこの場をお借りしてWANacの価値をお伝えできないものか……と頭をひねっているうちに思い出したのが、遥か昔の思い出。高校時代の水泳部の合宿だった。
 ある年の夏、私たちはひょんなことから別の高校と合宿期間が重なってしまい、特に親しくなるでもなく同じ施設で数日を共にした。当時は、モーター泳法で名を馳せたアメリカの競泳選手ジャネット・エバンスがソウルオリンピックとその四年後のバルセロナオリンピックで金メダルを獲得し、高校の部活でも、根性論から理論へと練習法がシフトしていたと思う。私たちのコーチは理論派で、ストリームラインを保つことで水の抵抗を減らし、肩を支点に身体をローリングさせて推進力を得る泳法を、言葉と動画を駆使して身体に叩き込んでくれた。理屈を知って泳ぐことが私たちにとっての泳ぐことであり、練習だった。そのため合宿でもいつも通り意識して泳ぐ練習をしていたのだが、そこに飛び込んできたのが、「速く泳げ~!頑張れ~!」という男性の怒鳴り声だった。驚いて水から顔を出すと、スポーツタオルを首にかけて野球観戦用のメガホンを口に当てた教師が、水中を行きかう生徒たちに顔を赤らめて叫んでいた。「速く泳げ、頑張れ」でタイムは縮まないだろう、と思ったのを覚えている。私たちは、水泳の作法を体得することによりスイマーになるのだ。
 研究にも作法がある。私たちは、研究の作法を体得することにより論文という自己表現が可能になるのだろう。上野先生は、女性学のバトンを受け取るための作法まで伝えてくださった。今度は私たちが、上野先生から受け取った財産を育て、バトンを繋いでいかなくてはいけない。

第11回レポート    https://wan.or.jp/article/show/11125
第十回レポート    https://wan.or.jp/article/show/11047
第九回レポート    https://wan.or.jp/article/show/11002
第八回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10950
第七回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10897
第六回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10842
第五回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10810
方法論ゼミレポート  https://wan.or.jp/article/show/10802
第四回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10754
第三回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10714
第二回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10645
第一回レポート    https://wan.or.jp/article/show/10703