モイ!(Moi! こんにちは!)
森屋淳子です.
新型コロナウィルスの感染者がまた増加してきています.10万人あたりの感染者数がヨーロッパの中で一番少ないフィンランドでも10名以上の集会禁止など,新たな制限が課されるようになったようです.
2020年は予期せぬコロナ禍で,私たちの生活は大きな変化を余儀なくされました.2020年2月から毎月,計10回にわたり,フィンランドのアレコレをご紹介させていただいてきましたが,最終回の今回は,私が“3年連続世界一幸せな国”フィンランドでの滞在中に学んだ「コロナ禍でのウェルビーイング(well-being)の保ち方」のうち,特に大切だなと思ったことをご紹介させていただこうと思います.
*ウェルビーイング(well-being):身体的,精神的,社会的に良好な状態にあることを意味する概念
1. コロナ禍に対する感じ方は人それぞれ.「正しい感じ方」というのはない.
2020年4月にフィンランドで「Resilience:How we have the mental strength in the middle corona」
というコロナ禍でのレジリエンスに関する番組が放映されました.
脳科学,産業保健,心理学の専門家が,
「新型コロナに対する反応は人それぞれ.こういう非常事態では,どれが正しいとか,どれが間違っているとかはないんだよ」
「適応していく必要があるけど,適応できる時間は人それぞれ違うよ」
「人にも自分にも優しくしよう」と分かりやすい英語で伝え,視聴者からの質問に答えていました.
私たちは,つい「〇〇は△△であるべき」という「べき思考」に囚われて,「自分と違う反応をする人たち」に対して,責めたり,イライラしてしまいがちですし,「新しい日常に適応できない自分」に対しても,落ち込んだり,イライラしてしまいがちです.そんな中で,「自分の感情や人の感情を否定せず,その感情に寄り添おう」というメッセージは,とても心に響きました.
「非常事態でイライラしているんだな,不安に思っているんだな」と善悪をジャッジせず「あるがまま」に受け止めることは,人に対する「温かなまなざし」や「思いやり」につながる気がします.「人にも自分にも優しくする」を心がけられると良いと思います.
2. 身体を動かすこと(Physical activity)は有効である.
前述の番組では,脳科学の見地から,「1回40分,週3日」の運動を勧めていました.
第3回のレポートに紹介したとおり,フィンランドではロックダウンの時でも「安全間隔に注意した上での屋外活動・アウトドアを推奨する」と明言していました.
“ステイホーム”というと「家から一歩も出てはいけない」と思ってしまいがちですが,“ステイホームタウン”と考えるのはいかがでしょうか? 三密を避けて,安全間隔を保った上で身体を動かすことは,身体的だけでなく精神的にも良い効果がある,と実感しています.また最近では,自宅でもできるヨガや体操などのオンラインレッスンやYouTubeの動画も充実していますよね.自分に合った形で「身体を動かすこと」を生活に組み込めると良いと思います.
3. 制約がある中での創意工夫・試行錯誤を楽しむ.
第4回のレポートに紹介したとおり,「できない理由」を考えるのでなく,「どうやったらできるか?」を考えるというのは,その「試行錯誤の過程」自体が,私たちの大きな学び/喜びにつながると感じています.
日本は「ゼロリスク思考」が非常に強い国ですが,「何が何でもリスクをゼロに」という思考に囚われると「すべてやらない方がよい」となってしまい,「人にとって大切なこと」が見失われてしまいますよね.感染対策はもちろん大切ですが,何でも一律で適用するのでなく,それぞれの環境に合わせて「弱者の日常をどうしたら守れるか」「子供たちの学ぶ権利や遊ぶ権利はどうしたら守れるか?」といった視点も大切にしたいです.
色々な制約がある中でも,創意工夫を凝らして前向きに取り組む大人たちの姿勢を見せることは,未来の社会を担う子供たちにも良い影響があるに違いないと考えます.
4. 人とのつながりを大切にする.
コロナ禍で人と自由に会えなくなった時,近所に住む友人から「○○を作ったけど,少しいる?」とか「○○が手に入ったけど,お裾分けどう?」と声をかけてもらいました.ちょっとした心づかいや思いやりがとても嬉しかったことを,今でも鮮明に覚えています.
今まで時々しか連絡を取っていなかった両親や弟とも,毎日LINEで体調や近況を報告しあうようになりました.直接会えなくなった分,オンラインツールを使って遠くに住む人たちと交流する機会も増えました.
「身体は遠くても心は近い」と感じられると,安心につながりますよね.「今日はどう?」と家族・同僚・友人に聞いてみること,大切な人や友人に連絡して近況を確認しあうこと.こういう時期だからこそ,親しい人との「温かいつながり」を大切にしていけると良いな,と思います.
5. 「良かったこと,楽しかったこと,嬉しかったこと」に焦点をあてる.
フィンランドでは,子供たちの保育や教育において,ポジティブ心理学の手法が多く取り入れられています.具体的には,「問題点を見つけて解決する」といった方向性ではなく,「良いところを見つけて伸ばす」といった方向性で物事を捉えます.また,「不満や問題点に焦点をあてるのでなく,楽しいことや嬉しいことに焦点をあてることで幸福感が高まる」ことも科学的に証明されています.
コロナ禍では,どうしても「問題点,恐怖,不自由さ」に焦点をあてがちですが,「良かったこと,楽しかったこと,嬉しかったこと」に焦点をあてていけると良いです.不安をあおるような報道をチェックする時間は減らし,毎日の生活の中で感じた小さな感謝の気持ちを「感謝の手紙」や「ありがとう日記」といった形で書き残すことは幸福感が高まるのでお勧めです.
以上,フィンランドで学んだ「コロナ禍でのウェルビーイングの保ち方」についてご紹介しました.
今後もまだ見通しの立たない,不確実な日々がしばらく続くと思います.今回紹介したもののうち,どれか一つでも「これは良いかも」と感じたことがあれば,是非始めてみてください.
そしてくれぐれもお元気で,良い年末年始をお迎えください.
月1回の連載は今回で終了しますが,もしまたフィンランドに行くことができましたら,こちらでレポートさせていただきたいと思います.今までありがとうございました!
モイモイ!ナフダーン!(Moi moi!Nähdään! さようなら!またね!)
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「フィンランドで見たジェンダー意識と子育て支援」バックナンバー
第1回(2020/2/10):“34歳女性首相”が誕生する社会
第2回(2020/3/10): 休むことはお互い様
第3回(2020/4/10): フィンランドの新型コロナ対策
第4回(2020/5/10):フィンランドの遠隔授業に思うこと
第5回(2020/6/10):フィンランドの子育て支援制度と課題
第6回 (2020/7/10) :夏休み中の伝統!公園での無料昼食サービス
第7回(2020/8/10):フィンランドの医療体験(緊急手術・入院編)
第8回(2020/9/10):フィンランドの医療体験(外来編)
第9回 (2020/10/10):フィンランドでは女性医師が過半数!
第10回(2020/11/10):フィンランドでのインフルエンザワクチン接種体験談