(浅倉むつ子さんからいただきました)
井上輝子さんが、突然、亡くなられました。あまりにも急なお別れを、受けとめきれずにいます。あの穏やかな笑顔にもう会えることがないのかと思うと、なんともいえない寂しさに、身の置き所がない気持ちです。
井上輝子さんとは、長い間、山川菊栄記念会の仕事でご一緒しました。私は、1991年に『男女雇用平等法論』(ドメス出版)という本で、第11回山川菊栄賞をいただき、その後、94年から、今度は選考する側に回り、選考委員会に加わりました。委員会は8名から9名くらいのメンバー構成で、井上さんが、長い間、委員長の職責を果たしてくださいました。毎年行われる選考会の1回目は、多くの自薦・他薦図書をほぼ3冊程度に絞る日、2回目は、絞られた3冊程度の本を全員で読んで受賞作を決定する日でした。
受賞作がすんなり決まる年もありましたが、最後まで議論が紛糾した後に、ようやく結論に至るというのが常でした。キャリーバックやリュックなどに書籍を詰め込んで、集まり、長時間の議論を重ねる仕事は、とても疲れるけれど、刺激的で楽しくて、毎年、本当に勉強になりました。井上さんはいつも、すべての書籍を読みこみ、的確な感想を述べつつ議論をまとめてくれました。意見対立があっても、最後は全員が納得できる結論に至ったのは、井上さんの力が大きかったと思います。ゆったりとおだやかに話しながら、フェミニズムの視点を絶対に譲らない、誰からも信頼される井上さんだからできた仕事でした。
選考委員の高齢化や、同様の賞が多く設立されたため、2014年に山川賞の選考・贈呈は終了しました(山川菊栄賞は正式には、「山川菊栄記念婦人問題研究奨励賞」といいます。歴代の受賞作品一覧は文末を参照。詳しくは以下のHPをご覧ください。http://roudousyaundou.que.jp/kikue.htm)。しかしその後も井上さんは、山田敬子さん、佐藤礼次さん等と一緒に、山川菊栄関連資料の整理や菊栄記念会の活動を精力的に進めてくださいました。
訃報の1か月前に、『いま、山川菊栄が新しい!』という、菊栄の生誕130年記念シンポジウム記録が送られてきました(申し込み先は文末参照)。井上さんが精魂こめて企画し、2020年11月3日に実現したシンポジウムの記録です(このシンポジウムの内容はユーチューブで配信されています。https://www.youtube.com/watch?v=JnVumIBezrs)。体調が悪くても、最後まで、誠実に責任を果たされたのだと思うと、本当に感謝に耐えません。心から尊敬できる、大好きな方でした。
2021年8月14日 浅倉むつ子
*「いま、山川菊栄が新しい!」 1冊1000円(送料込み)①お名前、②お申込み冊数、③送付先郵便番号と住所、④電話番号を記載して、以下のメールにお申込みください。
山川菊栄記念会 y.kikue@shonanfujisawa.com
山川菊栄賞 第1回~33回の贈呈対象者及び対象作
第 1回 (1981年度)=柴田博美、冨沢真理子、星野弓子、山田敬子「山川菊栄の研究」 (「婦人問題懇話会会報」No.34)
第 2回 (1982年度)=鈴木裕子 『山川菊栄集』全10巻(岩波書店)の編集・解説
第 3回 (1983年度)=福井美津子 ポールデザルマン原著『異文化の女性たち』(新評論) ジゼール・アリミ原著『女性が自由を選ぶとき』(青山館)の翻訳
第 4回 (1984年度)=亀山美知子『近代日本看護史ⅠⅡ』(ドメス出版)
第 5回 (1985年度)=女たちの現在を問う会『銃後史ノート』第1号~第10号
第 6回 (1986年度)=粟津キヨ『光に向かって咲け』(岩波新書)グレゴリー・M・フルーグフェルダー『政治と台所』(ドメス出版)
第 7回 (1987年度)=李順愛、崔映淑、金静伊 李効再原著『分断時代の韓国女性運動』 (御茶の水書房)の共同翻訳
第 8回 (1988年度)=金栄、梁澄子『海を渡った朝鮮人海女』(新宿書房)有賀夏紀『アメリカ・フェミニズムの社会史』(勁草書房)
第 9回(1989年度)=大林道子『助産婦の戦後』(勁草書房)
第10回(1990年度)=該当作・該当者なし
第11回(1991年度)=浅倉むつ子『男女雇用平等法論』(ドメス出版)
第12回(1992年度)=働くことと性差別を考える三多摩の会 『おんな6500人の証言―働く女の胸のうち』(学陽書房)
第13回(1993年度)=大沢真理『企業中心社会を超えて―現代日本を<ジェンダー>で読む』(時事通信社)/善積京子『婚外子の社会学』(世界思想社)
第14回(1994年度)=落合恵美子『21世紀家族へ』(有斐閣)
第15回(1995年度)=ウィメンズセンター大阪『女(わたし)の月経・女(わたし)のからだ―子宮内膜症とは』 (ウィメンズセンター大阪)
第16回(1996年度)=浅野千恵『女はなぜやせようとするのか-摂食障害とジェンダー』(勁草書房)/
森川万智子『文玉珠 ビルマ戦線楯師団の「慰安婦」だった私』(梨の木舎)
第17回 (1997年度)=藤目ゆき『性の政治学―公娼制度・堕胎罪体制から売春防止法・優生保護法体制へ―』(不二出版)
第18回 (1998年度)=春日キスヨ『介護とジェンダー 男が看とる 女が看とる』(家族社)
第19回 (1999年度)=田村雲供『近代ドイツ女性史 市民社会・女性・ナショナリズム』 (阿吽社)
第20回 (2000年度)=柘植あづみ『文化としての生殖技術―不妊治療に携わる医師の語り』 (松籟社)
第21回 (2001年度)=天野寛子『戦後日本の女性農業者の地位-男女平等の生活文化の創造へ』(ドメス出版)
特別賞:「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(通称VAWW-NETジャパン)
『日本軍性奴隷制を裁くー2000年「女性国際戦犯法廷」の記録』全5巻(緑風出版)
第22回 (2002年度)=戒能民江『ドメスティックバイオレンス』(不磨書房)
第23回 (2003年度)=三宅義子『女性学の再創造』(ドメス出版)
第24回 (2004年度)=「性暴力の視点から見た日中戦争の歴史的性格」研究会 / 『黄土の村の性暴力-大娘(ダーニャン)たちの戦争は終わらない』(創土社)
第25回 (2005年度)=森ます美『日本の性差別賃金-同一価値労働同一賃金の可能性』 (有斐閣)
第26回 (2006年度)=糠塚康江『パリテの論理―男女共同参画の技法―』(信山社)
第27回 (2007年度)=中村桃子『「女ことば」はつくられる』(ひつじ書房)
第28回 (2008年度)=該当作・該当者なし
第29回 (2009年度)=堀江節子『人間であって人間でなかった―ハンセン病と玉城しげ』(桂書房)/西倉実季『顔にあざのある女性たち―「問題経験の語り」の社会学』(生活書院)
第30回 (2010年度)=杉浦浩美『働く女性とマタニティ・ハラスメント―「労働する身体」と「産む身体」を生きる』(大月書店)
特別賞 富士見産婦人科病院被害者同盟・原告団
『富士見産婦人科病院事件-私たちの30年のたたかい』編集)(一葉社)
第31回 (2011年度)=大橋史恵『現代中国の移住家事労働者―農村・都市関係と再生産労働のジェンダー・ポリティクス―』(御茶の水書房)
第32回 (2012年度)=徐 阿貴『在日朝鮮人女性による「下位の対抗的な公共圏」の形成―大阪の夜間中学を核とした運動』(御茶の水書房)
第33回 (2013年度)=丸山里美『女性ホームレスとして生きる―貧困と排除の社会学』 (世界思想社 2013年3月)
第34回 (2014年度)=平井和子『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち』(有志舎)/塚原久美『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から―』(勁草書房)
注:同じ年に贈呈対象者が複数ある場合は、「/」で表示しています。
***** 井上輝子さん追悼 WAN掲載記事 https://wan.or.jp/article/show/9659
みなさまからの追悼のお言葉は以下にも掲載されています。
①https://wan.or.jp/article/show/9660
②https://wan.or.jp/article/show/9661
③https://wan.or.jp/article/show/9663
④https://wan.or.jp/article/show/9665
⑤https://wan.or.jp/article/show/9666
⑥https://wan.or.jp/article/show/9667
⑦https://wan.or.jp/article/show/9668
⑧https://wan.or.jp/article/show/9669
⑩https://wan.or.jp/article/show/9674
⑪https://wan.or.jp/article/show/9675
⑫https://wan.or.jp/article/show/9677
⑬https://wan.or.jp/article/show/9678
⑭https://wan.or.jp/article/show/9679
⑮https://wan.or.jp/article/show/9683
⑯https://wan.or.jp/article/show/9685
⑰https://wan.or.jp/article/show/9689
⑱https://wan.or.jp/article/show/9696
⑲https://wan.or.jp/article/show/9722
2021.08.15 Sun